16 男同士は駄目ですか?
松里家君の衝撃発言に、有咲さんが硬直します。
私は有咲さんよりは余裕がありましたが、それでも反応に困ってしまいます。
「あの、松里家君。つまり君は、私を性的な目で見ているということでしょうか」
このまま黙っていても仕方ないので、本質的な部分について尋ねます。
「はい。もう完全にそういう目で見ています。尊敬と、恋愛感情が半々といった感じでしょうか。何にせよ、僕は乙木さんのことが好きですよ」
恥ずかしがりもせず、堂々と松里家君は言い放ちます。
つまり、まとめるとこうです。松里家君はホモで、私に恋愛感情を抱いている。
いや、そもそもまとめるまでもないですね。松里家君の言ったとおりの話でしかありません。
「もちろん、無理強いをするつもりはありませんのでご心配無く」
「なるほど。まあ、そこは当然守ってほしい部分ですが」
しかし、まさか自分のお尻の穴の心配をする羽目になるとは思ってもみませんでした。予想外にもほどがあります。
とはいえ、こうした予想外の事態にも対応せねばなりません。ここは異世界。現代日本の常識は通用しません。協力関係にある男の子がホモで、突然恋愛感情があると暴露されるよりも不可思議な出来事だって存在するはずです。
なので、この程度で狼狽えるわけにはいきません。
「しかし、申し訳ありません松里家君。私は君の想いには応えられません」
「そうですか。もしかして、男同士は駄目ですか?」
「もしかしなくとも、男同士は駄目ですよ」
私は正直な自分の心境を伝えます。どうにか、私のことを諦めてもらいたいものです。
「それは妙ですね。乙木さんは既に男性同士の経験があると、宮廷魔術師のシュリヴァさんから訊いていたのですが」
おっと。これは厄介なことになりました。
私は確かに、シュリ君とは肉体関係を持ちました。しかしそれは、シュリ君が女の子のように可愛らしかったからに他なりません。
なので、男同士で恋愛感情を持つことはできません。シュリ君については、性欲に負けた例外であると言えます。
「シュリ君については、確かに行為に及んだことはあります」
「なら、僕もイケるのでは?」
「いえ。シュリ君は外見についてはどう見ても女の子です。私の本能的一部分も、彼のことは女の子に近い存在として認識しています。なので、決して男同士で興奮できるわけではありません。同性愛者というわけでもないのです」
「そう、だったのですか」
松里家君は、残念そうに肩を落とします。可哀想ですが、こればかりは仕方ありません。
これで話は一件落着。と思いきや、不意に私の肩にぽんと手が置かれます。
「なあ、おっさん?」
有咲さんです。何やら、威圧的な声色ですね。