15 松里家君の告白
「いやあ、乙木さん。やはり貴方は素晴らしい!」
話が終わったところで、松里家君が興奮した様子で言います。
「さすが僕が見込んだ方です。状況を分析し、冷静に考えている。これだけ異常な状況下、結論を急いで何をするべきか、判断を誤る可能性も高い。それを警戒して、常に物事を観察し、考える姿勢を貫く。素晴らしいことだと思います!」
さっきから、何やら松里家君にはべた褒めされています。照れてしまいますね。
「あまり褒められると、調子に乗らせていただきますが」
「どうぞどうぞ乗って下さい。いくらでも僕が持ち上げますので!」
「なにアホなこと言ってんだよ」
私と松里家君が和気藹々と冗談を言い合っていると、呆れた様子で有咲さんが文句を言います。
ひとまず、話を戻しましょう。
「――さて。これでおおよそ、認識の共有は出来たと思います。何か、質問などはありませんか?」
「いや、アタシは大丈夫。ってか、もうごちゃごちゃ考えんのはやめたから。おっさんのこと、とりあえず信用するよ」
「僕も問題ありません。乙木さんの考えについては全面的に肯定させてもらいます」
二人の了承も取れました。これで、認識は共有できたと判断して良いでしょう。
「では、今後についても軽く話をしておきましょう」
私はそう言って、元々の話題に戻ります。
「松里家君には、既に話したとおりです。勇者の情報、王宮の情報を流して頂きたい。それを、今後私がどのように動くべきか、という判断材料にしていきますので」
「任せて下さい。むしろ、乙木さんには事情を知ってもらった方が都合が良い。外部の視点で僕の置かれている状況を見てくれる人、というのはありがたいですからね」
松里家君は、私が利点として考えている部分と同じことを指摘します。お互いに、お互いの状況を別視点から確認できる。これは極めて有意義です。
単一の視点では、思考の幅に限界があります。選択を間違えるリスクも高くなります。これを避けるためにも、立場の違う協力者というのは重要になってくるわけです。
「そして有咲さん。今までも繰り返しお願いしてきましたが、これからも同じです。貴女のスキル、カルキュレイターには高い可能性が秘められています。これからもスキルの成長を促す為、数学の問題を解いて下さい」
「おっけい! まかせろ!」
有咲さんは元気良く返事をしてくれます。頼もしい限りです。
「あと――もう一つ。成長性を確かめるためにも、将来的には実戦経験を積んでもらおうと思っています。なので、冒険者としての活動のいろはについても少しずつ教えていきます」
カルキュレイターが単なる数字の計算以上のことが可能だという仮定。これに従えば、例えば冒険者としての活動中にも多種多様な問題に回答し、情報を分析してくれるはずだと推測できます。
計算以外の機能について調べるには、冒険者活動が最も都合が良いはずです。
数学的な要素はほぼ関わってきません。それに、私自身が冒険者活動の経験があります。なので、より安全かつ正確で確実な実験が可能になるわけです。
「まあ、なんかよく分かんないけど分かったよ。おっさんの為に、それとアタシの為になるんだったら文句は言わねーよ」
「ありがとうございます」
有咲さんは認識を共有した上で、協力してもらえると約束してくれました。これは今までの成り行き上の協力関係より、深いものです。
言わば一蓮托生。そんな関係を了承してくれた有咲さんには、本当に頭が上がりません。
協力関係についての話が終わった後。私たちは、何でもない雑談をして過ごしました。
ただし、松里家君はさり気なく王宮、そして勇者の様子についての話題を織り交ぜてくれました。
お蔭で、状況の理解が進みます。私の予想通り、王宮は勇者を表面上は持ち上げ、戦争の道具として利用する心づもりでいる様子。かつ、六ツ賀谷高校の子たちはそれに気づいていない。
召喚に巻き込まれた教員――つまり大人については、軟禁されて面会できない状態になっているそうです。ここまで露骨に情報を遮断し、判断力を奪っているとなると、逆に疑わない方が難しいでしょう。
とはいえ、子供たちに冷静な判断を求めるのも酷です。騙されて、正義感のまま戦争の道具として利用されるのもまた酷い話。
やはり助けてあげたい、という気持ちが強まります。
その後、話は弾み、夜も遅くなってきました。もう日付も変わっているほどの時刻になるでしょう。
普段どおりであれば、そろそろ松里家君の帰る時間です。
が、ここで有咲さんが一つ話題を投下します。
「ところでさ、松里家。お前ってさ、なんでおっさんに対してそんな媚びてんの?」
有咲さんの言葉に、松里家君が眉を顰めます。
「媚びてるとは心外だな不良女。僕は尊敬するべき人は尊敬する。それだけだ」
「いや、でもさ。こんなおっさんを尊敬するって、けっこうハードル高くない? ビジュアル的に」
有咲さんは中々辛辣なことを言ってくれます。
確かに私の外見はキモいおっさんです。見た目が災いして、他人に悪い印象を与えるのは当たり前のことです。キモいというだけでマイナス査定が下れば、どれだけ能力の高さを証明してもプラマイゼロ。いいえ、むしろマイナスにさえなりかねません。
それでも尊敬の念をはっきり示してくれる松里家君は、とても良い子に違いありません。
「ふん、まだまだだな、不良女」
松里家君は不敵に笑います。きっと偏見や外見で人を判断しないよう、有咲さんに忠告してくれることでしょう。
「乙木さんはこの外見だからこそ良いんだ。くたびれたどこか冴えない年配の男性が、実は高い能力を持っている。素晴らしいじゃないか」
おや? 何やら、私の想像とは違う方向に話が進むようです。
「いや、くたびれた冴えないおっさんって、ダメじゃん」
「ダメなものか。むしろそこがいい。くたびれて冴えない外見だからこそ、萌えるというものだ。分かるか? ダメオヤジ、可愛いだろ」
「ダメオヤジはダメオヤジだろ。ダメだろ。可愛くねえよ」
「全く、これだから素人は」
言って、松里家君はため息を吐きます。有咲さんは、馬鹿にされたにも関わらず、怒るよりむしろ困惑しているようです。
正直、私も松里家君の発言を理解しかねています。
「いいか不良女。世の中にはおっさん萌えというジャンルがある。そしておっさん萌えというのは奥が深い。愛でる対象は美形に限らない。中には脂ぎった臭そうなデブオヤジを愛でる者もいる。世界は広い。お前ごときが乙木さんの魅力を理解できると思うなよ?」
「あー。なんだ? よく分かんねぇけど。つまり松里家はおっさんが好きだってことか?」
有咲さんは面倒になってきたのか、雑に話をまとめようとします。しかし、それは失敗に終わるでしょう。何しろ私はキモいおっさんです。いくらなんでも好きだという言葉はふさわしくありません。
きっと松里家君も訂正するはずです。
「ああ、そうだ。僕は乙木さんのことが好きだ。人格面良し、知能レベルも問題無し。しかも外見まで僕の性癖にドンピシャだ。好きになって当然だろう?」
おや。訂正されませんでした。これは妙ですね。
「なあ。性癖ってさ、男同士で使うと変な意味に聞こえるから止めたほうがいいぞ?」
有咲さんが松里家君に忠告します。私も全くもって同じ意見なので、合わせて頷きます。
「何だ、そんなことか。それなら問題は無い」
そして松里家君は、なぜか自信満々に反論を繰り出します。
「そもそも、僕はホモだからな。実際に、そういう意味で言葉を使っている」
久しぶりの投稿になります。お待たせしまして申し訳ありません。
そして、もう一つ申し訳ないお話なのですが、今後は当作品の更新を隔日投稿、二日に一回に変更しようと思っております。
そもそも、私はあまり筆が早い方ではなく、毎日投稿を維持するのは大変な作業でした。
このままですと、今回のように、ストックを作る為の期間を何度も設けるようなことになりかねません。
また、不定期に空白期間が続くよりも、隔日で一定の投稿ペースを維持する方が読者の皆様にとっては楽しみやすいのではないか、と考えました。
ですので、今後は二日に一回の投稿というペース配分に変更させていただきます。
毎日の更新を維持できず、申し訳ありません。
せめて、隔日投稿には空白期間が生まれないよう、努力していきます。
どうか今後共、当作品を宜しくお願い致します。