13 おっさんの意識共有
「まずですね。私はあまり正確な計画は立てていないことを先に言っておきます」
私は、真っ先にその部分を宣言します。これは、前提として分かっていて貰いたい部分ですからね。
「無計画ってことか?」
「いいえ、違いますよ」
有咲さんから、思ったとおりの反応が返ってきます。私は否定し、説明を加えます。
「大雑把に、こうだったらこうしよう、みたいなことは考えていますよ。けれど、今後の行動を具体的に決めきってはいません。良い言い方をするなら、状況に応じて臨機応変。悪い言い方をするなら行き当たりばったり。そんなところでしょうか」
私が言うと、有咲さんは困ったような表情を浮かべます。
「でも、さすがに方針ぐらいは決めてんだろ? 結局、この国に味方すんの? それとも、この国と敵対すんの?」
「さあ? それはどちらとも言えませんね」
私は、現在の自分の考えのまま答えます。すると、有咲さんは頭を掻きむしります。
「だああっ! もう、わけわかんねえよ! それって何にも考えて無いってことじゃねえのかよ!」
「それは違います。きちんと考えれば、有咲さんのような問いに答えが出せないことが分かりますよ」
「意味分からん、どういうことだよ?」
有咲さんが理解できていないようなので、詳しく語りましょう。
「そもそも、私の目的は先程も言った通り。安全の確保と子ども達の保護です。それを優先する為、必要なことを考えてみてください」
私が言うと、有咲さんは腕組みして首を傾げながら考え始めます。
「えっと、まず安全は、敵が居なきゃいいんだろ? 危なくない場所に行くとかでもいいんじゃねえの? で、うちの高校の奴らを保護するなら、めっちゃ強くならないとダメじゃね?」
「そうですね。どちらもおおよそ正解です。もっと言えば、強くなれば安全を保証することも出来ます」
私はそう言って、その点について深く語ります。
「この世界で安全を脅かす大きな要因は三つ。一つが戦争。一つは魔物。そして最後の一つが治安。この内、魔物と治安に関しては単純な腕っぷしだけで解決出来ます。結局の所、難しい問題は戦争の一つだけということになります」
ここまでの説明に、有咲さんは納得した様子で頷きます。問題無いようなので、このまま説明を続けましょう。
「戦争の危険を逃れる手段は主に二つ。戦争の影響が無い場所へ逃げる。戦争を終わらせる。このどちらかを満たせば、安全が保証されると考えて良いでしょう」
とまあ、二つの選択肢を提示しました。
「逃げる場合は、どう逃げれば良いのか考えねばなりません。どこへ逃げるのか。いつからいつまで逃げていられるのか。戦争が続くなら、逃げた先に戦火が広がる可能性もありますからね。逃げる手段も問題になります。状況によっては国境超えもありうるでしょうから、馬車で悠々と街道を進むわけにはいきません」
逃げると一口に言っても、実際にするべきことは数多くあります。逃げ続けるにしても、その先々で不自由なく生活するための蓄えも必要です。六ツ賀谷高校の生徒の皆さんも一緒になる可能性も考えると、やるべきことは無数に増えます。
「つまり、世界の片隅に絶対安全な国でも存在しない限り、逃げるという選択は単純に選択することは出来ないのです」
逃げるという選択は行動の指針にはなり得ないわけです。考えを巡らせるからこそ、選択出来ないという事実に至ります。
そこの所を有咲さんが理解してくれるといいのですが。表情からはそこまでの理解度を読み取ることは出来ません。話を続けましょう。
「次に、戦争を終わらせるという選択を取ったとしましょう。ですが、この場合も話は同じです。一度の勝ち負けで戦争が終わるとは限りません。そうなると、戦争の終結は難しい。全ては情勢、状況次第です。この国や魔王の都合、事情が変われば戦争終結の糸口も変わります。現時点でどうすれば戦争が終わるか、なんて考えても、それは想像の域を出ません」
つまり逃げるという選択同様、目標に設定するわけにはいきません。大雑把に戦争を終わらせたい、と思うことは出来ますが、それまでです。具体的に戦争終結の為の策を現段階で張り巡らすのはリスクが高い。情勢次第で、全てが水泡に帰することになるわけですから。
「そう考えると、結局どちらの選択も現時点では選べない。もっと情報が必要ですし、状況が固まるまで大きくは動けません。この国に味方をするのか、しないのか。戦争を自分の手で止めるのか、それとも逃げるのか。何一つはっきりとは出来ません」
「なんつーか、それって詰んでねーか?」
有咲さんが眉を顰めて聞きます。私は、これに首を横に振ります。
「難しい状況ですが、詰みではありません。今はまだ選択できないだけ。それは要するに、そのうち情報があつまり、状況が変われば選択肢もはっきり決まってくるということでもあります。その時、どのような選択肢でも選べるよう、手札を増やす。それこそが、現時点で出来る最適解なんです」
「あー、つまりどういうこと? この国で出世するってこと?」
「もっと大雑把な話ですよ。つまり最強になれば何でもできるので最強になりましょう。という話です」
「ふふっ」
私が少し冗談めかして言うと、松里家君が笑いました。ジョークが通じたのは喜ばしいことです。どうやら、松里家君とはその辺りのセンスも合いそうですね。