12 悪い大人
「はぁ? おっさん、前に宮廷魔術師のヤツが来た時に言ってたじゃねえか! 戦争を終わらせるために、この国を勝たせるってよぉ!」
納得いかないのか、有咲さんが声を荒げます。ここは、しっかりと説明しておきましょう。
というよりも。むしろ、今まで有咲さんにちゃんと説明していなかったのが良くありませんね。勘違いをさせたまま、放置していたわけですから。
「有咲さん。貴女は重大な勘違いをしています」
「は? 何のことだよ」
「あの日の私は、シュリ君と戦争を勝つための手段について話をしました。戦争に勝つためには、どのような手段を取ればよいのかについて話をしました」
そこまで言って、少し間を置きます。再び口を開き、重要な点を言葉にしてしまいます。
「ですが、この国を戦争で勝利させる約束など一度もしていませんよ」
私の言葉に、有咲さんはポカンと呆けたような表情を浮かべます。もう少し、突っ込んだ説明をしておきましょうか。
「あの日した会話は、もしもこの国が戦争で勝つために、私が協力するとしたら、という仮定の話です。戦争に協力するつもりが無くても、協力する場合どうするかについて話すことは不可能ではありません。まあ、相手側にも勘違いさせてしまったのなら申し訳ない気持ちでいっぱいになりますが」
「ははは! なるほど、乙木さんはそんなことをしていたわけですか! さすがです乙木さん」
どうやら話の流れを読み取ったのか、松里家君が笑い声を上げます。
「おい不良女。理解できていないようだから僕が教えてやろう。つまり乙木さんは、国側の人間を騙したんだよ。自分があたかも協力者であるかのように、言葉を選んだんだ。嘘を吐かずに、都合よく勘違いをさせたんだよ」
ようやく合点がいったのか。有咲さんは驚きの表情を浮かべます。
「おっさん! それって、ヤバイんじゃねーか? ってか、戦争に勝たずに、どうやって平和とか安全とか実現するんだよ!」
新たな疑問を浮かべる有咲さん。それに、一つづつ答えていきましょう。
「有咲さん。大人というのは、建前と方便で自分に都合よく周りを動かそうとするものですよ。特に私のような人間は。自分の目的の為に、人を騙して都合よく利用するなんて、普通のことですよ」
私の回答に、有咲さんは呆気に取られたような表情でため息を吐きます。
「そっか。つまりおっさんは、あのシュリヴァとかいうヤツのことも騙してるわけか」
「そうなりますね。有咲さんは悪い大人に騙されないよう、注意してくださいね?」
まあ、シュリ君に関しては分かった上で騙されているのかもしれませんが。悪い大人は、時に自分の都合の為にわざと愚かなふりをします。
愚かな失敗は避けられない。そういう建前が必要な場面も、社会には少なくありませんから。
「じゃあ、やっぱ戦争を終わらせるとか、平和とか安全とかいう話も全部ウソだったわけ?」
有咲さんは、今度は逆に私の全てを疑っているようです。まあ、一度騙されてしまうとこうなるのは仕方ありません。が、誤解されたままでは困るので、当然弁明します。
「いいえ。それについては本心ですよ。間違いなく戦争を終わらせたいと思っていますし、最終目標は安全の確保。そしてついでに六ツ賀谷高校から召喚された皆さんを助けたいと思っています。まあ、第二目標については可能な限りと但書が付きますが」
例えば有咲さんのお友達だった不良君達は、場合によっては助けない可能性もあります。根っからの悪人までは、例え子どもであっても救うつもりはありません。
「ああ、もう! 何なんだよおっさん! アタシ、おっさんのことがよく分かんなくなってきたよ」
有咲さんは、疲れたような声色でぼやきます。
ふむ。意識共有が十分に成されないと、今後の計画に支障が出る可能性があります。ここは、私の目標について、しっかりと説明した方が良さそうです。
という理由で、私は有咲さんに自分語りをすると決めました。
夜は長いですし、今日は松里家君という新たな協力者もいます。しっかりじっくり、私の考えについて理解を深めてもらいましょう。
明けましておめでとうございます。
今年も出来る限り更新を続けていきます。
当作品をこれからも宜しくお願い致します。