11 常連客
勇者称号の四人が来店してから、話が広まったのか。他の召喚された六ツ賀谷高校の生徒たちも、稀に私の店へ訪れるようになりました。
が、定期的に来店する人はほとんど居ません。多くの人が一度だけ、興味本位で見に来ただけの様子でした。
しかし、それでも問題ありません。重要な人間関係は築き上げることが出来ましたから。
実は勇者称号の四人のうち、二人が常連客となりました。
一人は宣言していたとおり、聖女の三森さん。そしてもう一人は、なんと私の狙い通り賢者の松里家君です。
松里家君は定期的に店へと来店し、特に何を買うわけでも無く私を訪ねてきます。
どうやら、王宮を信用していない、という点で私と意見が合ったのが嬉しかったらしいのです。戦争から距離を置くにはどうすればいいか。クラスメイトが乗り気になっていて困る。等といった話題で雑談をする為に来店します。
当然、雑談は他のお客さんの邪魔になってしまいます。なので、来客がほぼ皆無となる深夜の時間帯に松里家君は来てくれます。
こちらとしても松里家君とは交流を持ちたいので、喜ばしいことです。深夜であればしっかりと対応出来ますし、私にとっても好都合。
そうして、松里家君とはある程度の親交を深めることが出来ました。
なのでいよいよ、目的通り松里家君にとあるお願いをすることにします。
「情報が欲しい、とはどういうことですか?」
松里家君が、私の提案を聞いて首を傾げます。今日はまだ日付も変わっていない時間なので、私と松里家君の他に、有咲さんもこの場に同席しています。
せっかくなので、詳しく説明してしまいましょう。
「六ツ賀谷高校の皆さんの状況が知りたいのです。王宮からどのような扱いを受けているのか。不満は無いか。あるいは、妙な動きをしていないか。そして反対に、王宮の様子についても聞きたいと思っています。王宮側の人間にも知り合いが居るので、一応は様子を知ることも可能なのですが。立場の違う、しかも冷静でよく物事を考える能力のある人にもお願いしたいのです」
シュリ君やマルクリーヌさんが時おり来店してくれるので、その時に会話をして、王宮の様子を探ってはいます。が、二人は国の人間です。召喚者側の立場で見た情報には、また異なった価値があります。
それを説明すると、松里家君は快く引き受けてくれました。
「構いませんよ。むしろ、僕としても乙木さんとは今後も協力していきたいですから。戦争なんてまっぴらです。逃れるための手段があるなら、こちらとしても上手く利用したい」
面と向かって、私を利用することを宣言する松里家君。なかなかの大物です。しかし大胆でいて、同時によく物事を考えた上で行動している様子です。協力者として、これほど心強い召喚者は松里家君だけでしょう。
「なあ、おっさん。それって良いのか?」
すると、何故かこのタイミングで有咲さんが口を開きます。
「良いのか、とは何のことですか?」
「いや、松里家って特に強い勇者なんだろ? そんなヤツが戦争を嫌がってて、しかも戦争から逃げるのに協力するとかさ。戦争に勝つつもりなら、あんまし良くないんじゃねーの?」
有咲さんは率直に、疑問を言葉にしてくれました。
確かに、戦争に勝つつもりであれば松里家君との協力関係は矛盾します。
しかし、矛盾してでも勇者の皆さんの情報は内側から手に入れておきたいぐらいの重要な情報です。その動向次第で、私も計画を変えなければなりませんから。
それに。そもそも、有咲さんは勘違いをしています。
「別に、私は戦争に勝つつもりはありませんよ。なので、松里家君に協力するのは何の問題もありません」