09 勇者来店
冷蔵庫を設置したことで売上がさらに伸び、雇い入れる従業員も増やしました。
お店は順調に利益を上げ続け、かつ冒険者さん以外の間でも話題になり始めました。
冷えたお酒は、冒険者以外の人々も魅了したわけです。一般の労働者もまた、仕事のあとはお酒を飲みたがります。
お蔭でお店は大繁盛。そう遠くない内に、冷蔵庫の為に支払った金額以上を取り返してくれることでしょう。
そんなある日のことです。日中の、ピークを過ぎて比較的店内が暇な時間帯。そこへ、思わぬ来客がありました。
「うわ、マジで冷蔵した酒が売ってる! コンビニみてーだな!」
店内に入り、冷蔵庫を確認するなりそんな声を上げる少年が一人。そして、付き添いらしい少年が二人と少女が一人。
「ちょっと東堂くん。あんまり騒ぐと、他のお客さんに迷惑だよ」
少女がたしなめ、他二人の少年も頷いて同意します。
「でもさ、興奮するだろ? 異世界に来てまで、日本っていうか現代っていうか、そんな感じのモノがあるとかさ。何ていうか、癒やされる? みたいな?」
「だからって騒いでいいわけじゃないぞ、陽太」
「全くだ。僕が同類だと思われると恥ずかしいから、少し距離を取らせてもらうよ」
「ちょっ、勇樹てめぇ!」
楽しそうに会話をする少年たち。その傍らで微笑む少女。
私はこの四人のことを知っています。ちゃんと覚えています。
この世界に召喚された、六ツ賀谷高校の生徒たち。その中でも勇者称号と呼ばれる特別なスキルを手にした、四人の勇者。
騒いでいたのが『剣聖』の東堂陽太君。それを嗜めた少女が『聖女』の三森沙織さん。同様に嗜めた少年が『勇者』の金浜蛍一君。そして東堂君を批判した少年が『賢者』の松里家勇樹君です。
いずれ勇者の誰かが私の店の噂を聞けば、興味本位で来店することがあるだろう、と考えていました。
が、想像よりかなり早いです。しかも、勇者称号の四人が来ました。召喚された子達の中心人物です。
好都合すぎる誤算です。四人と対話する準備が何も出来ていないのが良くありませんが。まあ、その辺りは今日のところは親交を深めるだけにしましょう。より深く勇者の皆さんと関わるのは、また後日ということで。
「いらっしゃいませ、勇者の皆さん」
私はさっそく、四人に話しかけます。
「あれ? どうして俺たちが勇者だってわかったんですか?」
「っていうか、このおっさん見たことあるぞ。王宮から追放されたおっさんじゃん!」
金浜君、そして東堂君が反応します。どうやら、私が追放された人間であることをご存知のようです。説明をする手間が省けて助かります。
「ご存知でしたか。確かに私は、幸いにも王宮から追放された召喚者。名を、乙木雄一と申します」
「ふふっ。幸い、ですか」
私の言葉に、松里家君が反応しました。
「羨ましい限りです。僕も戦争に加担し、良いように利用される身分を捨てられるなら、追放なり何なりしてほしいぐらいですよ」
「おい勇樹。そういう言い方は無いだろ?」
今度は松里家君の言葉に金浜君が反応します。
「言い方も何もないだろう。僕は以前から、国に利用されているだけだと説明してきたはずだぞ」
「だったら俺だって散々説明しただろ? この国の人だって困ってるから勇者召喚なんてことをしたんだ。人助けだと思って、そこは受け入れてくれよ」
「ふん。本当に人助けなら良いけどな」
「疑いすぎだって、勇樹は」
二人は急に言い合いを始めます。が、お陰でそれぞれの考えと立場が理解できました。
やはり、私の見立て通りのようです。金浜君は善意からこの国に協力するつもり。そして松里家君は、自分たちが戦争の道具として利用されることを理解し、可能なら拒否したいと思っている。
深く関わるべき相手が決まりました。
今後は、松里家君との関係を重要視していきましょう。