07 店舗改築
食品保存の袋と箱を作ったことで、いよいよ私は店内にある設備を導入することを決定しました。
それは冷蔵庫。そして、ウォーマーです。
飲食物を取り扱うことにより、食べ物を目的に来店するお客さんが増えました。
となると、飲み物も欲しくなるのが人の常。
そこでもしも、この店でキンキンに冷えたジュースやお酒、温かいコーヒー等を販売したらどうなるでしょう?
きっと、大勢の人が有り難がるに違いありません。現代日本のコンビニ同様に、食品と合わせて飲み物を買っていくお客さんが増えるでしょう。
しかし、実際に販売する上で問題があります。
それは、ドリンクをどのような容器に入れて販売するか、という問題です。この世界にはペットボトルなど存在しません。ガラス瓶や陶器の瓶はあります。が、私個人が量産するには少し高価すぎます。
ドリンク販売の利益、旨味が薄くなってしまいます。
しかし、この点は後々解決する予定です。
まずは瓶入りのお酒を販売して様子を見ましょう。お酒なら瓶を使っても、単価が高いので十分な利益を得られるはずです。
なので、まずは冷蔵庫から作ってしまいましょう。ウォーマーに関しては、後々作るつもりです。
「というわけで、作業を手伝ってほしいのですが」
私は冷蔵庫導入の説明を、今日は非番であるはずの有咲さんにしました。本来なら休日のはずですが、人手が足りません。また、冷蔵庫という存在を詳しく説明する必要が無いのは有咲さんだけです。手伝いをお願いする上で、一番楽な相手です。
「まあいいよ。っていうか、休日っつっても暇だし。おっさんに言われた通り、数学の問題解く以外やることないしな」
有咲さんはそう言って、快く引き受けてくれました。
ちなみに、数学の問題とは私が課した宿題のようなものです。カルキュレイターを成長させるための経験値として導入しました。自分のスキルが強くなると知ったからか、有咲さんは意欲的に取り組んでくれています。
まあ、この話は今は関係ありませんね。まずは冷蔵庫です。
冷蔵庫を作るに当たって、まず必要なのはスペースです。
コンビニで使われているような大きな冷蔵施設は、後ろから商品を補充するような仕組みになっています。また、在庫も保管できるよう空間に余裕をもたせている為、正面からの見た目以上のスペースを取ります。
そこで、今回は店舗の片隅を板で仕切り、工事中の札を掲げることにしました。その内側のほぼすべてを、冷蔵庫として利用する予定です。
ちなみに店舗はそれなりの広さがあるため、通常の商品を置くスペースにはまだ余裕があります。そもそも、商品がまだ少ないので全然余裕です。商品棚すら無く、机の上に籠を置いて、その中に商品を入れて分別してある状態です。
将来的には商品の種類は今より遥かに増えるでしょう。そうなれば、コンビニのように商品棚へ効率的かつ機能的に陳列する予定です。
ともかく、スペースについては問題ありません。空間を確保し、その内側で細かい作業をします。
「有咲さんには、これを取り付ける作業を行ってもらいます」
言って、私は無数の鉄板を指差します。
「これは?」
「はい。冷却板です。シュリ君の伝手で属性付与の技術を持つ鍛冶屋に依頼して作りました。弱い氷属性を付与してあるので、魔力を流すと周囲が冷えます」
ちなみに、この冷却板だけで我が店が今まで上げてきた利益の三分の二が吹き飛びました。
「取り付けるったって、どうやってやるんだよ」
「はい、これを使って下さい」
私は、瓶に入った透明な液体と、その液体を板に塗る為の刷毛を取り出します。
「なあ、おっさん」
「なんでしょう」
「嫌な予感がするんだけど、この液体って何なんだ?」
「粘着液です。塗って乾くと、かなり頑丈に取り付けが可能です」
「やっぱテメーの唾液じゃねーか!」
有咲さんがキレました。まあ、予想はしていましたが。一応この粘着液はスキルで出したものなので唾液ではありません。が、私の口から出た以上は有咲さんにとって同じことなのでしょう。
「安心して下さい。手で触らなくてもいいように、刷毛を用意しましたから」
「そういう問題じゃねえから。ぶっ殺すぞ」
「さすがに殺されるのは少々困るので遠慮願えませんか?」
「やだよ。絶対殺す」
かなり高い殺意を抱かれたようですね。
その後、しばらく有咲さんを説得することでどうにか粘着液の使用を承諾してくれました。セクハラだ何だと文句を言われましたが、仕方ありません。この粘着液が無料かつ極めて優秀なので、どれだけ嫌われても使わざるを得ません。将来的には、量産することさえ考えているほどです。
もしも粘着液を量産したあかつきには、有咲さんには相当嫌われることになるでしょうね。