07 チートの中では普通のチート
「では続いて、特別な力を持った特殊スキルというものを付与します。これらは勇者称号スキルでも出来ないような、特殊で特別な力を発揮します」
女神様は、続けて与えるスキルについて説明を始めました。
「但し、勇者称号系のスキルは全て、特殊スキルに対する耐性か、あるいは対抗手段を持っています。ですので、自分の力に自惚れ、勇者を廃して自分が頂点にのし上がろう、等とは考えないようお願いします」
その忠告があった段階で、何人かの生徒が動揺している様子でした。
自分が一番になりたい、という気持ちは分かります。でも、勇者たちはクラスメイトですよ。危ないことをしてはいけません。
女神様の忠告があって良かったです。これで勇者も、今苦い顔をしている子達も不幸にならずに済みます。
「ではまず『魔法無効化』スキルから。全ての魔法を無効化するスキルです。仁科雪さん」
「あ、あたしじゃん!」
挙手したのは、今日のお昼に三森さんと一緒にいた子です。僕をキモいと言っていた子ですね。
僕は気にしませんが、異世界で同じ態度だと苦労するでしょう。どうにか手助けしてあげたいですが、無理でしょうね。私はキモいと思われていますから。
そうこう考えているうちに、仁科さんは異世界へ転移していました。健闘を祈っておきましょう。
「次は『絶対鑑定』のスキルです。あらゆるものを鑑定し、正確な情報を得ることが出来ます。受け取るのは、真山正蔵さん」
「おっしゃ! きたこれ! お約束のチートスキルじゃん!」
挙手ではなく、ガッツポーズで応えたのは、何度も変なことを言ってみんなに睨まれていた男子生徒です。
どうやら、異世界に転移するのが好きなようです。経験者なのでしょうか?
あるいは親が異世界に転移していたのかもしれませんね。不思議なこともあるものです。
真山君が転移したら、すぐに女神様は次のスキルの説明を始めます。どうやら、勇者称号系のスキル以降はテキパキと与えていくつもりのようです。
「次は『技能模倣』スキル。チートスキル以外の全てのスキルを見ただけで習得できます。野村浩一さん」
「俺じゃん!」
手を上げたのは、今日の昼に私を取り囲んだ不良男子の一人ですね。茶髪に目付きの悪い子です。
あまり調子に乗っていると、異世界で怖い人に怖いことをされますよ。
現代日本だって、調子をこくとヤクザさんが出てきて折檻されますからね。気をつけたほうがいいでしょう。
「次は『即死魔法』のスキルです。自分より魔力の低い相手を即死させることが出来ます。神崎竜也さん」
「絶対つえーじゃん! マジぶっ殺すわ!」
手を上げたのは、またお昼の不良男子の一人です。黒髪をツンツンに立てて、耳にピアスをした子ですね。
不良に人を殺すスキルを与えていいのでしょうか。調子にのって友達や知り合いに手を出してしまうかもしれませんよ。
でもまあ、女神様が与えるスキルです。性格も込みで、よく考えて与えているはずです。きっと身内に関しては安全なのでしょう。
「次に『完全回復』スキルです。聖女の治癒魔法でさえ不可能な死者蘇生と、四肢の欠損を治療することが可能です。鈴原歩美さん」
「私だわ」
挙手したのは、数少ない大人の一人です。白衣を着ているので、恐らく養護教諭さんでしょう。ぴったりのスキルだと言えます。
「次は『暗殺術』スキルです。暗殺に有用な複数のスキルが統合されたスキルになっています。木下ともえさん」
「わ、私ですかっ?」
驚きの声と一緒に挙手したのは、また大人でした。高校生に指示を出していた一人なので、クラス担任か何かでしょう。
何だか柔らかい雰囲気の女性なので、暗殺はあまり似合いませんね。
少しふくよかで肉付きがよく、丸顔で愛らしい顔立ち。私の好みのタイプの女性ですね。異世界に転移して機会があれば声をかけてみましょう。
どうせキモがられて終わりでしょうけど。
「次は『超加速』スキルです。自分だけが高速で動けるようになるスキルです。周囲の全てがスローモーションになったように見え、あたかも時間が止まったような世界の中を行動できます。七竈八色さん」
「はい」
呼ばれて手を上げたのは、ミステリアスな雰囲気の少女です。髪が長く、顔立ちがよく見えません。
それにしても。ななかまど、やいろ。特徴的な名前ですね。興味が無くても覚えてしまいそうです。
「次は『弱体化』のスキルです。触れた相手の能力を少しずつ低下させていくことが出来ます。これは不可逆な効果なので、仲間には使わないでくださいね。加藤淳也さん」
「おっしゃ、俺じゃん!」
今度は、お昼に私を囲んだ不良男子の最後の一人です。金髪で長髪の男の子です。顔立ちが中性的なので、女性に間違われそうですね。
「次は『洗脳調教』スキル。目を合わせた相手を洗脳し、自分の言いなりにすることが出来ます。意思が強い相手や、魔力の高い相手、状態異常に耐性のある相手には効きません。内藤隆さん」
「俺かよ」
挙手したのは、制服を着ていない男の子です。灰色の髪に、唇にピアスがしてあります。
そういえば今日、有咲さんがタカシ、という人の名前を出していましたね。もしかしたらこの人がそのタカシ君なのかもしれません。
その後も、女神様によるスキル付与は続きました。
迷宮創造。成長促進。無限魔力。召喚魔法。不死身。無限収納。超位錬金術。絶対零度。灼熱業火。必中狙撃。支援重複。絶対防御。
その辺りまで話を聞いたところで、耳を傾けるのにも疲れてきました。
私はただ黙って、自分がチートスキルを貰える順番を待ちます。
そしてとうとう、私以外の全員がチートスキルを貰い、異世界に転移しました。
いよいよ、私の番です。