06 新商品の数々
ジョアン君に配送の仕事を頼んだこともあり、新たな魔道具、つまり商品の開発は一層捗ることとなりました。
護身用に作った魔道具は既に商品として完成しているので、そのまま店頭に並べるつもりです。
護身用のローブに関しては、既に宣伝効果のお蔭で買う人が現れています。ボロ布のローブで作った分に関しては、全て試作品だから、ということで複数の冒険者さんにタダで手渡しました。感想が知りたい、という建前を利用した口コミ狙いの宣伝です。
その甲斐もあって、今はローブが品薄の状態が続いています。
元々、品物の数は多くありません。しかし、一つ一つをかなり高額に設定してあります。C級以上の裕福な冒険者でないと手が出ない価格設定です。
それでも、買う人は続出します。強固な鎧より頑丈。身を守りつつ、ローブとしての役割もちゃんと果たす。量産品としては破格の性能です。
ダンジョンや遺跡から産出する魔道具の中には、このローブさえ凌ぐ性能の鎧があったりします。が、一般の冒険者が手に入れられるようなものではありません。国宝になったり、A級以上の冒険者の手に渡ったりします。
しかしこのローブは量産品。国宝になる心配や、格上の冒険者にかすめ取られるリスクはありません。お金のある冒険者さんは、こぞってこのローブを買おうとします。
若い冒険者さんの中にも、将来的にダンジョンや遺跡産の魔道具ではなく、このローブを入手することを目標としている者も現れ始めています。
防犯キャンディーについては、ついでに置いてあるだけなのであまり売れ行きは良くありません。特に宣伝もしていません。
が、時おり冒険者さんではなく一般のお客さんが買いにくることがあります。孤児院だけではなく、マリアさんにも支給している商品なので、奥様方の間で少し話題になっているようです。
むしろ、どちらかと言えば奥様方からの要望をマリアさんの伝手で聞き及んだからこそ、商品として置いている節があります。
比較的暇な時間帯、ピークを過ぎたぐらいの時間に子持ちの親が来店することが増えました。お蔭で客層に広がりが出ました。
予期せぬ影響ですが、良い兆候です。売れる商品の幅が広がり、利益も増えるでしょうからね。
そして防護魔石ですが、これは冒険者さんと一般の方のどちらにも売れています。ただ、うちの店ではローブに次ぐ高級商品なので、数はそれほど売れていません。
裕福な家庭が子どもの為に買う場合や、C級ほどの冒険者さんがいざという時の保険に買うことが多いです。
シュリ君が本気を出したら、こういった魔法を付与した道具をいくらでも作れるのでしょう。宮廷魔術師とは恐ろしいものです。
まあ、そういった力を王家が独占するための肩書きが宮廷魔術師ですからね。
この魔道具に関しては、私が抜け穴のようなやり方でシュリ君の能力を活用させてもらっているだけです。実際には、こんな優れた魔道具が世間に出回ることは無いでしょう。
さて、防犯用に開発した魔道具の他にも、いくつか新商品が既に店に並んでいます。
一つは、冒険者さん向けの携行食料です。
食料自体は、他の店でも売っているものです。が、うちの店では治癒魔法の一種である浄化の魔法を使い、殺菌処理を施しているので普通の携行食料よりも長持ちします。
また、付与魔法で『甘露』というスキルを付与しているので、美味しく食べることが出来ます。
スキル『甘露』とは甘い蜜を出して獲物を捕まえる魔物が持つスキルで、僅かな魔力と引き換えに甘みを感じる汁を出す効果があります。
このお蔭で、食べる人の身体から自然に発せられている魔力から僅かな汁を分泌し、甘みを加えます。
実はこの商品。私が冒険者としてまともに活動していた頃、試しにと作ったものを商品にしたのです。
ほどよい甘みと練って作った栄養食のコラボ。お蔭で携行食料というよりきなこ棒のような味わいになり、癖になる美味しさがありました。
商品名は『甘露餅』に決めました。
携行食料の他にも、サンドイッチやホットドックに似た屋台料理も商品として提供しています。
こうした食べ物は、冒険者さんが朝食や昼食としてよく利用するものです。というのも、ときには一日中冒険者としての活動に勤しむこともあるため、ゆっくりと食事が出来ないからです。
私もよく、サンドイッチを片手に薬草を集めていました。
ただ、屋台の多くは早朝から営業はしていません。一方で、冒険者さんは時には朝早くから仕事に出ることもあります。
その為、忙しい朝は仕方なく朝食を抜く冒険者さんもいました。
そこで私の店で、早朝から屋台で出されているような食品も取り扱うことにしました。
日も昇らぬ時間に深夜勤務の担当が調理し、店頭に並べます。そうすることで、早朝から冒険者さんに食料を提供することができるわけです。
労力の割に利益は薄いですが、お蔭で多くの冒険者さんが定期的にこの店へ顔をだす理由が出来ました。
また、他の店にはない便利さを経験した冒険者さんが、私の店を特別に便利な店として認識してくれるようにもなりました。
ようするに、私の店の評判を高める為の一手というわけです。
現状は、深夜勤務は寝ずの労働が可能な私だけでこなしています。なので仕事自体も苦ではありません。
ラインナップはサンドイッチと数種類の揚げ物。仕入れも加工も簡単なため、この二つを選びました。朝早くにパンを切って食材を挟む。あるいは鶏肉や芋を揚げる。それだけの簡単な作業です。将来的には、深夜を誰かに任せることになっても問題無いでしょう。
そして、こうした食品と同時に、食品を保存する為の容器も販売することにしました。革袋タイプと木箱タイプの二種類です。
どちらも付与したスキルは同じ。それは『恒温』と『保湿』と『清浄化』の三つです。
恒温スキルは雪原に生息する一部の魔物が持つスキル。温度を一定に保ちます。これのお蔭で、温かいものは暖かく、冷たいものは冷たいままで保管できます。
元は体温を保持するスキルです。温度保持の効果が魔法瓶のような性能を発揮するわけです。
保湿スキルは砂漠の魔物が持つスキル。皮膚の水分が失われるのを防ぐスキルです。これを袋や木箱に付与すると、内側の湿気が外に逃げにくくなります。
お蔭で、保管している食品がパサパサになるのを防げます。
そして最後に清浄化のスキル。これは聖なる泉や森などに生息する精霊の持つスキルで、周辺環境を清浄に保ちます。水や空気を清らかにするので、内部の食品の腐敗をかなり遅らせることが出来ます。
これらのスキルを付与したお蔭で、食品保存の可能な時間が、従来よりも百倍近く伸びました。これは、同じサンドイッチを食品保存箱とそうでない箱に入れ、経過を見ることで確認しています。
最初は宣伝もしていない為にあまり売れませんでした。が、じわじわと実用的であることが口コミで広がっています。
最近は袋の方を冒険者さんが買っていきます。それに、一般のお客さんも箱の方を買いに来ます。うちの店には主婦の方がよく来店するので、ちょうどニーズにもマッチしています。いずれ、この商品も流行するのではないかと踏んでいます。
お値段は、お求めやすくしています。家庭でも使われるような一般の魔道具と同等の価格です。こうした生活実用品を高額すぎる設定にするのはあまり良くありませんからね。
また、競合する商品も存在しません。
もしかしたら、蓄光魔石よりも人気の商品となるかもしれませんね。