04 ローサとジョアンのお手伝い
「まず、ローサさん。貴女は裁縫が得意ですね?」
「えっと、はい」
おとなしい子なので、ローサさんは小さな声で答えます。
「その技術を、もっと磨いて欲しいのです。私が、ローサさんの為に裁縫のことが分かる本や、色々な服をプレゼントします。これを使って、ローサさんにはいろんな服を作れるようになって欲しいのです」
「え、えっと。はい」
私のお願いの意味は分かっていないのでしょうが、ローサさんは頷きます。恐らく、それほど難しいことではないと考えたのでしょう。
しかし、これは重要なことです。将来的に、ローサさんには服飾関係の仕事を取りまとめる幹部として働いてほしいと思っています。そうなると、早いうちから様々な服に関する知識に触れていた方が遥かに有利でしょう。
なので、私はローサさんに教材として本や服をプレゼントします。
もちろん、勉強するだけでは仕事という建前を満たせません。なので、建前としての仕事の内容についても説明します。
「そして、ローサさんは新しく学んだ知識を元に、いろんな服やズボン、とにかく布で作れる衣服類を作って欲しいのです。その全てを、私が買い取り、商品にします」
「あ、あの。今つくってる、ローブはどうしたら、いいんですか?」
ローサさんが、ローブ作りのお仕事の方を気にしたようです。それについても考えてあります。
「ローブを作っているのは、ローサさんだけじゃありませんよね? ローブ作りは他の子に任せちゃって下さい」
「でも、それだと大変になります。みんな、裁縫はそんなに得意じゃないので」
「なら、ローサさんが上手な作り方を詳しく教えて上げて下さい。本や服を見て学んだ知識も、他の子に教えてあげてもいいですよ。それに、ローブを作るのはノルマではありません。作りたいように、楽なペースで仕上げてくれたら良いのです」
「わ、わかりました。乙木のおじちゃんの言う通りにしてみます!」
覚悟を決めたように、拳をぐっと握ってローサさんが返事をします。同時に、私はイザベラさんの方へ視線を向けます。
どうやらこのやり取りには問題が無かったらしく、ニコニコと笑顔を浮かべたままです。
さて。次はジョアン君と交渉しましょう。
「では次に、ジョアン君。君には、商品の配送を手伝ってほしいのです」
「えっと、どういうこと?」
「私の店では、今後多種多様なものを販売する予定です。そのために、あちこちから商品となるものを取り寄せます。この時、たくさんの店に顔を出して仕入れをしなければなりません。が、とても手間がかかります。なので、この部分の仕事を手伝ってもらいたいのです」
「えーっと、おつかいをしてほしいってこと?」
「そうです。そんな感じです」
「じゃあ、任せてよ!」
ジョアン君はトン、と胸を叩いて引き受けてくれます。
「ちょっと待ってください」
ですが、ここでイザベラさんが口を挟みます。
「その仕事は、子供だけに任せるのは危険ではありませんか? 時刻に関わらず、子供だけにお金をもたせて街を歩かせるのは同意できません」
尤もな意見です。イザベラさんが心配するのも当然でしょう。
が、当然その点については考えがあります。
「大丈夫ですよ。お金をもたせる予定はありません」
「へ?」
「お金は、私が先にお店の方へ払っておきます。ジョアン君には、お店を回って品物だけを集めてもらいたいのです」
これは当然、ジョアン君の身を守る意味もありますが、一括で契約することで仕入れ値を安くしたり、金銭を末端で扱うことで損益が不透明になることを防いだりする意味もあります。
「で、ですがそれでも、子供の一人歩きは危険です!」
「同意します。ですので、ジョアン君には身を守るための魔道具をお渡ししようと思います」
私はそう言って、いくつかの魔道具をアイテム収納袋から取り出します。