02 ハーフエルフの双子
マリアさんの子ども、双子のティオ君とティアナさんは、ハーフエルフと呼ばれる存在でした。
ハーフエルフとは、エルフと呼ばれる人種と一般的な人が交わり生まれた存在のことを指します。
この世界では、エルフとは人種の一つであるそうです。妖精を起源に持つ人種である、等という説もあるそうですが、真偽は定かではありません。
ただ、そう言われても不思議ではない特徴があります。
それは、エルフは皆総じて大変美しい顔立ちをしているという点です。
多くの人種にとって、エルフは極めて美しく整っているように見える顔立ちをしています。その関係で、古来はエルフを観賞用の奴隷として売買するような時代もあったのだとか。
さすがに現代のこの世界ではありえない事です。が、それでもエルフの容姿、そして血は特別なものとして認識されています。
そんな中、無防備にハーフエルフの子どもを放置するとどうなるでしょう。
卑しい大人に目を付けられる場合もあるでしょう。最悪、人攫いなどに狙われる可能性もあります。
つまり、エルフの血を引くティオ君とティアナさんは、普通の子どもよりもずっと危険に見舞われやすいのです。
実際、二人はエルフの血を引いているお陰か、儚げで大変美しい顔立ちをしています。
親であるマリアさんが心配をするのも頷けます。
「事情は理解できました」
私は頷き、そして決定を口にします。
「三人共、うちの従業員として雇いましょう。特に、ティオ君とティアナさんに関しては、護身用としてうちの店で開発した魔道具を貸し与えることをお約束します」
「っ! ありがとうございます、乙木様!」
想像以上の待遇だったのでしょう。マリアさんは喜びと驚きに表情を染め、感謝の言葉を告げつつ頭を下げます。
優遇にはなりますが、こちらとしても悪い手段ではありません。マリアさんの元旦那さんはA級冒険者で、しかもエルフだったわけです。その人脈は相当なものだったと推測できます。
となると、マリアさんと親しくしておけば、私もその人脈にあやかることが可能となるわけです。
情けは人の為ならず。まさに、こういう場面で使う言葉でしょう。
「本当に、心から感謝いたしますわ。乙木様のような心優しく、それも力強い殿方の庇護を得られるとなれば、私も安心して子ども達を預けることが出来ます」
「はぁ。そうですか。って、力強いですか?」
どうにも、私の外見からはかけ離れた評価が出た為、つい反応してしまいます。
「ええ。これでも私、元々はA級冒険者の妻ですもの。強い殿方を見分ける目には、自信がありますの」
言いながら、マリアさんがすり寄ってきます。
妙に色気のある仕草な上、距離も近いです。つい、そういう目線で意識してしまいます。
「うふふ。乙木様のような殿方であれば、旦那を亡くした私の寂しさを埋めてくれるのでしょうね」
「は、はぁ」
「これからも、宜しくおねがいしますわ、乙木様。特に子ども達とは、それこそ親子のように仲良くして頂けると嬉しく思います」
「こ、これはどうも」
返答に困ります。
何のしがらみも無い身でしたら、この誘いに調子よく乗るのですが。さすがに子どもを育てるという責任まで負うことは出来ません。せめて今後予定している幾つかの事業が安定するまでは、マリアさんのアプローチには応えられません。
据え膳が目の前に迫ってくるのに、食うことができないとは。まさか、異世界に来てこんな贅沢な悩みを抱えることになるとは思ってもみませんでした。
「ティオ、ティアナ。二人はどうかしら? 乙木様とは仲良くやっていけそう?」
マリアさんが、直球で二人に質問します。
「うん。私は乙木のおじさま、好きだよ」
ティアナさんからは好印象を貰えているようです。
「僕もだよ。おじさまみたいな人が、僕のパパだったらとっても良いなって思うもん」
ティオ君にも好印象のようです。
というか、パパと言うのはやめてほしいですね。直球過ぎますし、正直言って変な意味に聞こえてしまいます。
私はシュリ君のお蔭で性癖が広がりました。なので、ティオ君のような中性的な美少年ならぶっちゃけかなりアリです。変な意味でパパになるのもやぶさかではありません。
とまあ、邪な感情に流されている場合ではありません。
「これからも、従業員と雇い主として、仲良くしていきましょう皆さん」
私は、しっかり線引きしつつ話をまとめます。
「ええ。そして出来るなら、ただの従業員以上の交流を持ちたいと思っていますわ」
そしてマリアさんは、遠慮なくアプローチを重ねてきます。
これが、肉食系というやつでしょうか。
体験してみると、嬉しくもあり、恐ろしくもありますね。
この話までで、連続投稿を終了します。
ストックが切れるまでは、連日投稿自体は続きます。
これからもどうぞ宜しくおねがいします。





