01 求人
後日。シュリ君は正式な書面を持って再び私の店に訪れました。そして正式な契約を交わし、定期的に照明魔石を仕入れることとなりました。
また、私の店『洞窟ドワーフの魔道具屋さん』は正式に宮廷魔術師付きの店として指定していただきました。
これは要するに、宮廷魔術師が研究過程で必要とするものを仕入れる時に使う店だ、と名指しすることを意味します。
このお蔭で、研究過程で必要だ、という名目で予算を貰い、私の方へと流してもらうことが可能になるわけです。
まあ、当然名目上の研究、つまりお金を貰うための建前を考える必要がその都度生まれるわけですが。
しかし借金ではなく、勝手に使って良いお金を貰えるわけです。単に私の店へ融資してもらうよりも、遥かに良い待遇だと言えるでしょう。
お金に関してはある程度の見通しが立ちました。
が、残る問題は労働力。つまり私の店で働く従業員についてです。
計画としては、孤児院の子たちを教育し、良い人材として育て上げるつもりです。
が、すぐさま労働力となるわけではありません。
そもそも、孤児院の子たちは将来の幹部候補とでも言ったほうがいいでしょう。ヒラの従業員については、一般から募集するつもりです。
そこで、魔道具店の新たな従業員を募集することとしました。
理由としては、これから商品のラインナップが増えれば忙しくなることが予想されるからです。特に、私は店頭に立つ以外の仕事も数多くこなす予定です。有咲さん一人で、今以上のしごとを回すのは不可能でしょう。
そこで、新たな労働力として従業員を二、三名ほど雇うことを決めました。
狙い目は、冒険者の旦那さんを亡くされた未亡人です。
冒険者さん同士の口コミや人間関係から、求人情報が行き渡りやすい点。そして何より、恐らく安定した時間を働いてくれる見込みが高い点が目をつけた理由になります。
当然、未亡人の知り合いを紹介して下さい、等とは口に出しません。
あたかも普通の従業員を募集するように、冒険者さんに世間話を切り出します。
その上で、安定して長時間働ける点や、仕事内容は簡単で、体力をそれほど必要としない点などを説明します。
するとあら不思議。自然と冒険者さん同士で情報が共有されて、自然と未亡人の方へと話が伝わるわけです。
冒険者という仕事柄、友好関係は既に働いている人間か、知人の冒険者の家族ぐらいなものです。
そして既に働いている人間は求人に食いつきません。冒険者は仕事上、安定して長時間働くことは出来ません。
なので自然と、求人情報は冒険者の家族の元へと行き渡るわけです。
そして、火急仕事を必要としているのは、その中でも夫を失い、収入源を失くした未亡人です。夫が生きていれば、無職の妻は専業主婦に徹します。あるいは夫の稼ぎが足りず、既に働いているはずです。
そうした理由から、求人には未亡人の応募が来ると予想しました。当然、未亡人でなくとも条件に合えば雇うつもりですが。
そうして募集した結果、二組の応募がありました。一組目は、予想通り未亡人。C級の冒険者さんの夫を亡くしたばかりで、すぐに働きたかったとのこと。
面接の結果、人格的にも問題はありません。簡単な足し算引き算も出来ます。当然、すぐに雇いました。
そして、二組目の応募です。こちらが、少々変わり種でした。
面接にやってきたのは、身なりの整った女性。そしてそっくりな顔立ちの少年と少女です。
「はじめまして、乙木様。私はマリアと申します」
身なりの良い女性、マリアさんは丁寧にお辞儀をします。こちらもお辞儀を返し、手早く本題に入ります。
「さて。マリアさんは、なぜ今回の求人に?」
「はい。実は」
そうして、マリアさんの身の上話が始まりました。
四年前に旦那さんを亡くしたそうなのですが、その旦那さんがなんとA級冒険者だったそうです。十分すぎるほどの財産を残してくれたそうで、四年間働くことは無かったとのこと。
しかし、子どもを育てつつ家に引きこもっていると、人間関係が希薄になり、時おり寂しく思うことがあったそうです。
そこで、マリアさんはどこかで働くことを考えたそうです。それも、子どもと一緒に。
子どもから目を離したくない為、子供だけを家に置いて働きには行けない。けれど子どもでも働けるような仕事はそう多くない。あっても、三人を同時に雇い入れてくれるような仕事はなかなか存在しません。
そんな中、私の出した求人情報を耳に入れ、興味を持ったそうです。簡単な仕事であれば子どもでも出来るだろう、と考えてのこと。
「しかし、常に三人一緒に働いてもらう、というのは難しいですね」
私は正直に、マリアさんの要望には応えられないことを告げます。
が、マリアさんは首を横に振ります。
「それについては、場合によっては気にしません。乙木様が、しっかり面倒を見て下さるのでしたら、うちの子だけの出勤もアリだと考えています。それに、託児所扱いするわけではありませんが、私が働いている間は子ども達をお店のどこかに置いて頂けるだけでも良いのです」
「ほう、なるほど」
そうなると、シフト組みもなんとかなりそうです。幸い、うちの店の二階には部屋の余裕があります。ひと部屋を、仮の託児スペースとして使う分には問題ありません。
「しかし、お子様からそれほどまでに離れられないというのは、何か理由がおありなのですか?」
「ええ。実は」
そう言って、マリアさんは双子の少年と少女、ティオ君とティアナさんの耳元の髪を掻き分けます。
そして耳を顕にします。
耳の先端が、人間ではありえない程度に尖っているのが見えました。
「うちの子は、ハーフエルフなのです」