28 雄一お兄ちゃんと姪っ子の有咲
「とまあ、それが私という人間の半生です」
私は、長々と有咲さんに自分の話を語ってしまいました。
有咲さんは、気まずそうにうつむいています。
やはり、あまり気分のいい話題ではありませんね。こういう話は、しないほうが得策です。しかし黙っているというのも、訊かれた手前よくありません。
どう対処すれば良かったのか。半端に歳を重ねた私のようなおっさんには、そんなことさえ分かりません。
ああ、情けない。
「なあ、おっさん」
有咲さんが、口を開きます。
「アタシは、雄一お兄ちゃんは何でも知ってる、すごい人だって思ってた。今でも覚えてるよ。雄一お兄ちゃんはすごい。かっこいい。って、ずっと思ってた」
なんだか、むず痒くなってしまう言葉ですね。
気恥ずかしくなり、ごまかすように頬をぽりぽりと掻いてしまいます。
「だから、なんて言えばいいか分かんねーけどさ。とにかく、雄一お兄ちゃんはすげーんだよ。アタシは、そう思ってる。大学留年とか中退とか、よく分かんないし。アタシは、アタシが見たもののことしか分かんない。だから、やっぱりアタシの雄一お兄ちゃんは、今でもカッコいいよ。すげー人のまんまだよ」
「あ、有咲さん」
胸にくる言葉を貰いました。
目元がじんわりと熱くなります。
いけませんね。いい年こいた男が見せるものではありません。
私は零れそうになるものを堪えて、感謝の言葉を口にします。
「ありがとうございます」
「ま、まあな。ってか、雄一お兄ちゃんが凄くても、おっさんはおっさんだからな! 調子に乗んなよなっ!」
「ふふ。そうですね。分かりました」
有咲さんの照れ隠しのような暴言が、何だか心地よく感じてしまいます。
私の姪っ子は、とても良い子です。本当に、誇りに思います。
「で、結局おっさんは色々あって、最終的にコンビニ店員になったってことだよな?」
「はい、そういうことです」
とても雑なまとめかたですが、有咲さんの言葉に私は同意します。恐らく、頭の中では分かっているのでしょうから。
「でもやっぱ、おっさんって本当はすげーんだからさ。ちゃんと頑張れば、もっと普通の仕事で働けたんじゃねーの?」
そして、有咲さんがさらなる疑問を口にします。
「そうですね。確かに、資格等を取って、就職先を探せば、どこかの企業に就職することは出来たかも知れません」
「じゃあ、なんでコンビニ店員なんかしてたんだ?」
「まあ、それについては難しいところですね」
私は、正直な所を口にします。
「私という人間の可能性について諦めていた部分もあります。長年の選民思想が抜けず、今更媚を売るような努力をしたくなかった、というのもあります。ただ、最大の理由は、やはり十分に満足していたからでしょう」
「満足? してたのか?」
「はい」
訝しむ有咲さんに頷いてみせます。
「コンビニ店員という仕事はともかく、一緒に働く従業員の皆さんの助けになれることが嬉しかったのですよ。そこに、小さいですが満足感がありました。割に合いませんが、充実感が得られました。だから、自分の居る環境を変えようとは思わなかったのかもしれません」
私の言うことがよく理解できないのか、有咲さんは納得できていない様子でした。
実は他にもちょっとした理由があったりするのですが。この場で有咲さんに打ち明けるのは少々気恥ずかしいので、誤魔化してしまいましょう。