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26 乙木雄一という男




 シュリ君に私の童貞を美味しく頂いてもらった後、私は二人で店に戻り、そのまま各種契約を書面で交わしました。


 なにやらぐったりした様子のシュリ君を、有咲さんは不思議そうに見ていました。が、私とシュリ君がやることやってきたとまでは思っていないでしょう。さすがに、バレていないはずです。というかバレたらいけません。さすがに有咲さんに本気で嫌われかねません。


 姪っ子に汚物でも見るような目で見られながら一緒に生活する。

 そんな地獄、考えるだけでも嫌なものです。


 と、言っておきながら。

 考えてみると、短期的にはそう悪くもない気がしてきました。


 とまあ、関係ないことは今は置いておきましょう。


 私と契約を交わし、後日王宮から正式な書面を以って本契約を交わす約束をして、シュリ君とマルクリーヌさんは帰っていきました。

 そしてようやく訪れたピークを私と有咲さんで捌き、時刻は夜。


 既に店内に人の姿はありません。この時間になると、そもそも来客する人が居ません。ごく稀に、冒険者でもない一般の方が照明魔石に興味を持って来店するぐらいです。それも、必ず買っていくというわけでもありません。


 当然、暇です。私一人で仕事は可能なので、既に有咲さんは自由時間。

 普段なら銀貨を握りしめ夕食に出かけるところですが、何故か今日は出ていきません。


 何かを言いたげに、ずっと私の側に座っています。


「なあ、おっさん」


 そしてついに口を開きます。


「おっさんって、どうしてコンビニ店員なんかやってたんだ?」

「なぜ、そのような質問を?」


 私は有咲さんの質問の意図が分からず、つい訊き返してしまいます。


「いや。だって、おっさんって、雄一お兄ちゃんだったわけじゃん?」

「いやいや。今も雄一お兄ちゃんですよ」

「いやいやいや! それはわかってるっつーの! なんつうか、雄一お兄ちゃんって頭が良くて、何でも知ってるすごいお兄ちゃんってイメージだったのにさ。なんでコンビニ店員なんかやってたのかなって思ったんだよ。今日のおっさん、なんかすげー雄一お兄ちゃんっぽかったからさ」


 有咲さんは、顔を赤くしながら言います。どうやら、私のようなおっさんを褒めるのが気恥ずかしい様子です。

 恥ずかしい思いをしてまで、こんな質問をするのです。理由は分かりませんが、なかなか強い好奇心が働いているのでしょう。ここは雄一お兄ちゃんとしては、答えてあげねばならないでしょう。


 しかし、どう語ったものか。

 私も説明に困る話ですからね。


 ふむ。そうですね。では、順番に有咲さんの疑問が解消されるまで、一つずつ遡って答えていきましょう。


「そうですね。まず、コンビニで働いていた理由ですか。それは、私のような大学を留年して中退した人間がまともにありつける仕事がそう多くはなかったからですよ」

「そう、なのか?」

「ええ。格安飲食チェーンの店員や、介護、派遣労働、警備業など、色々ありますが。どこもさして待遇は変わりませんよ。たまたま、私が最初に面接で受かったのがコンビニだったというだけです」


 当時のことを思い返しながら、語ります。

 私のような社会的信用の低い人間は、面接で高い確率で落とされます。まあ、コミュニケーション能力が高い方でもありませんし。さほど若くもありません。


 もっと若い学生アルバイトや高卒のフリーター。コミュニケーション能力の高い人間。労働経験の豊富な定年退職後のおじさん。などなど、競争相手は数多くいます。

 若くなく、コミュニケーション能力が高くなく、経験も低い私が受かるアルバイトというのは、人材が相当不足している業種でなければありえないのです。


 つまり、単純に賃金が低くきつい仕事。あるいは、労働環境が悪く雇ったアルバイトが抜けていきやすい。そんな場所しか残っていません。


 大学時代、全ての時間を読書に費やし、個人的な知識欲を満たすだけの年月を送った結果がこれです。

 私には、いい条件で働ける仕事など残っていなかったのです。


 とまあ、そのようなことを有咲さんに、分かりやすく噛み砕きつつ説明しました。


「本ばっか読んでたんだったら、図書館の司書とかなれなかったのか?」

「司書というのは、本を読むだけでなれる仕事ではありませんよ。むしろ資格が必要ですから、私のような経歴の人間とは縁遠い仕事です」


 実は若い頃の私も、有咲さんと似たような甘い考えを抱いたことがあります。当然、図書館司書の資格について調べてすぐに諦めましたが。


「じゃあ、なんでおっさんは大学を留年して、中退したんだ? ちゃんと卒業すりゃあ良かったじゃん」

「それは、卒業が不可能になったからです。大学を卒業するために、単位というものが必要になります。しかし、私は単位をほとんど取得しないまま、六年も在籍していました。計八年が在学できる最大期間でした。しかし、私が卒業するために必要な単位を全て取るには三年は必要でした。つまり、完全に詰みだったわけです。それに大学に通う理由もほぼなくなっていましたから。退学するのは、自然な選択でした」


 私が言うと、有咲さんは眉を顰めます。


「なんでおっさんは、その単位ってやつを取らなかったんだよ?」


 全くもって正論です。

 しかし、当時の私はその正論を聞き入れるつもりがありませんでした。


 ある意味で、とてつもない馬鹿だったのです。


「その理由については、若い頃の私の行動原理について話す必要がありますね」

「行動原理って?」


 有咲さんが聞き返してくれたので、私は頷き、正直に話します。


「若い頃の私の行動原理は二つでした。一つは、知識欲を満たし続けること。もう一つは、女の子にモテること」


 そして私が正直に言った結果、有咲さんは呆れたような表情を浮かべます。

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