06 チートの中のチート
「それでは、まずはチートスキルの中でも特別な、勇者称号のスキルを与えようと思います」
勇者称号ですか。なかなか、強そうな響きです。
「勇者召喚の要とも言えるスキルです。あらゆるチートスキルを統合した、チートの中のチートと言えるスキルです。中でも『勇者』のスキルは特別です。順調に成長すれば、一人で魔王軍と渡り合うことさえ可能でしょう」
高校生たちがざわつきます。
勇者のスキルを手に入れたら、それはこれから行く異世界で安全を保証されるも同然です。誰もが欲しがって当然でしょう。
「では、まずは『勇者』のスキルを与えます。金浜蛍一さん。挙手をしてください」
「お、俺です!」
挙手をしたのは、なんと勇者召喚にただ一人だけ異論を唱えた男子高校生でした。
なるほど。正義感も強く、冷静で、行動力もある。そういう人物にこそ、勇者は相応しいのでしょう。
彼は咄嗟の状況で命の危機に気づき、反抗しました。それはきっと、自分だけでなくクラスメイトも危ないと思ったからなのでしょう。
勇者に相応しい人選と言えます。
「では金浜蛍一。貴方の行く末に幸多からんことを祈ります」
女神様の声が聞こえると、金浜君の身体が光に包まれます。そして光が収まった頃には、既に金浜君の姿はありませんでした。
「既に金浜蛍一さんは転移を済ませました。スキルを与えた者から、このように異世界へと送ってゆきます」
女神様は状況を説明してくれました。なるほど、手っ取り早いですし、与えたスキルの差等で騒ぎを起こしづらい仕組みです。
この白い空間ではもちろん、転移先にも時間差で出るのです。一人ずつ、別々に対応すれば、転移者同士でのトラブルを避けやすいでしょう。
女神様はけっこう仕事が出来るタイプのようですね。
「次に『聖女』のスキルを与えます。三森沙織さん」
「わ、私です!」
名前を呼ばれて挙手したのは、なんと今日のお昼に私を労ってくれた子です。
優しい子でしたからね。聖女という優しげな称号もぴったりでしょう。
「聖女のスキルは、勇者よりも治癒と補助魔法に特化したスキルです。貴方の行く末に幸多からんことを祈ります」
そして女神様が金浜君の時と同じ言葉を口にします。すると、三森さんが光に包まれ、姿を消します。
良い子ですから、転移先で良い扱いを受けられるよう祈っておきましょう。
「次に『剣聖』のスキルです。勇者よりも剣技と近接戦闘能力に特化したスキルです。受け取るのは、東堂陽太さん」
「俺じゃん!」
挙手したのは、坊主頭の男子です。
見覚えがあります。うちのコンビニで毎朝パンを買っていく子です。
恐らく、部活に熱心で毎朝練習に励んでいるのでしょう。早朝から顔を見る学生なので、覚えてしまいました。
「貴方の行く末に幸多からんことを」
こうして、東堂君も異世界に転移していきます。
「次に、勇者称号系のスキル最後の一つ『賢者』を与えます。これは勇者よりも攻撃魔法に特化したスキルです。受け取るのは、松里家勇樹さん」
「僕のようだな」
挙手したのは、眼鏡をかけた賢そうな男の子です。コンビニでは見ない子なので、どういった生徒なのかは私には分かりません。
「貴方の行く末に幸多からんことを」
そうして、松里家君も異世界に転移します。
これで勇者称号系のスキルは全て与えたらしいです。
つまり、勇者とは今名前が挙がった四人が主役なのでしょう。みんな良い子だと思うので、悪いようにはならないでほしいですね。今からでも、四人の無事を祈っておきましょう。