25 シュリヴァと乙木の契約
「よし、分かったよ。オトギンの計画についても理解できた。確か、融資をして欲しいんだったね? 正式に宮廷魔術師付きの魔道具店として認めてあげるよ。そうすれば、研究費という名目でオトギンに国の予算を渡せるはずだよ」
シュリ君から、私の聞きたかった言葉が聞けました。長々と説得に時間がかかりましたが、これでようやく将来への見通しが立ちます。
「ありがとうございます、シュリ君」
「うん。他ならぬオトギンのお願いだし、お金を無駄にするわけでもなさそうだしね。っていうか、蓄光魔石の工場を作るだけでとんでもない国益を生み出すはずだよ。ボクが拒否する理由なんて、ぶっちゃけ全く無い感じだったりするけどね」
まあ、そうでしょうね。しかし、それでもシュリ君は詳細を気にしていました。それは恐らく、私という存在を品定めする意味もあったのでしょう。
出資するにしても、ただ蓄光魔石の工場を作る為だけなのか。それとも、それ以上の利益を期待するのか。これが違えば、図ってもらえる便宜の程度も変わってきます。
「というわけでオトギン。契約は成り立ったわけだし、そろそろあの約束、報酬を貰いたいな~、って思ってるんだけど?」
「あの約束、ですか!」
私は前のめりに反応します。これにマルクリーヌさんと有咲さんが驚いている様子ですが、気にしません。
あの約束、というものが何より重要なのですから。
「あの約束と言いますと、やはり王宮を出る時に交わしたあの約束ですか!」
「そうだよ。ようやくボクも、覚悟が決まったっていうか、本気になったっていうか。いつまでも本調子じゃない態度でいるのはらしくないなって思ったんだよ。だから、今日はしっかりそのつもりでここに来たんだ」
シュリ君の笑顔に、どこか妖艶に思える部分が混じります。
「というわけでオトギン? ここじゃアレだし、別の場所に行こっか!」
「はい是非」
私はシュリ君の手を取り、店を出ようと足を動かします。
「おい待ておっさん! どういうことなんだよ、さっぱりわかんねーんだけど!」
そんな私を呼び止める有咲さん。
姪っ子に、あの約束について説明するのは避けたいです。というか、少年のお尻を狙うおっさんだと知られたら、今後の関係が危うくなります。ここは何としても隠し通さねばなりません。
まずは、念のためにマルクリーヌさんの方を見ます。どうやら、シュリ君の行動については傍観を決め込んでいるようです。ムスッとしていますが、何も言いません。恐らく、下品な話を有咲さんの耳に入れるのを避けてくれているのでしょう。さすがです。
後は私が適当にごまかせばいいだけですね。
「有咲さん」
「な、なんだよ」
私は真面目な顔で有咲さんと向かい合います。
「私はシュリ君と契約を交わし、以前からとある報酬を引き渡す約束をしていました。そして、その報酬というのは他人の目につく場所で渡すわけにはいかないのです」
「ボクは見られながらでも全然平気だよ~?」
シュリ君がアブノーマルな提案をしてきますが、ここは乗るわけにはいきません。無視します。
「というわけで、私はこれからシュリ君に報酬を引き渡す為、適切な場所を探しに向かいます。また少しの間お店から離れますが、ピークまでには帰ってきますので宜しくおねがいします」
「わ、分かったよ」
有咲さんの了承も得られました。夕刻のピークまではまだ二時間以上の時間があります。そこまでは、有咲さんに任せてしまっても大丈夫でしょう。
いえ、多少大丈夫でなくても、今回ばかりは逃せません。
何しろ、念願の、長年夢見た脱童貞のチャンスが訪れているのですから。
「ではシュリ君いきましょう」
「う、うん。っていうかオトギン。ほんとこの話題になるとグイグイ来るよね?」
「当然です。積年の望みが叶うのですから」
脱童貞は私の人生の主目的と言っても過言ではありません。興奮するのも当然と言えるでしょう。
「さあ行きましょうシュリ君さあ早く!」
「わ、わかったってば! もう、積極的だなぁオトギンはっ!」
こうして私は、シュリ君の手を引き、適当な連れ込み宿を探して店を後にしました。
その後。
私はついに願いを叶えることが出来ました。
詳しく語ることは出来ません。
ただ、シュリ君の身体は最高でした。それだけは言っておきましょう。