24 スキルの成長性
「それについては、仮説があります」
私は、有咲さんに否定されたのですぐさま反論をします。
「恐らく、有咲さんはまだカルキュレイターを使いこなしていないだけなのではないかと思います」
「はぁ。使いこなすったって。よく分かんねぇけど」
有咲さんは言って、不貞腐れるような仕草をします。上手くスキルを使えていない、と言われて実力や努力の部分を否定されたように感じたのでしょう。
「別に、有咲さんの能力を疑っているわけではありませんよ。そもそも、スキルとはそういうものなのです」
「は? どういうこと?」
「スキルには、使うほどに上達して効果が高くなるものがあるんですよ。そして、有咲さんはまだカルキュレイターをあまり使用していないはずです。なので、現状ではカルキュレイターは大した効果の無いスキルになっているんです」
「ああ、なるほど。そういうことね」
私の言葉に、有咲さんは納得したように頷きます。
「さすがオトギン。スキルには成長性のあるものも存在するって話、よく知ってたね」
「ええ。王宮で書物を読み漁った時、知った知識の中にありましたから」
私にとって、重要な情報でした。何しろ、廃棄スキルでも成長すれば使い物になるかもしれなかったのです。暗記するのも当然でしょう。
なお、実際に成長性のあるスキルというのはそう多くはありません。
例えば、蓄光スキルに関しては決まった法則があります。一定の光に対し、一定の魔力を生み出す。この変換効率はどれだけ蓄光が繰り返されようと一定のままです。
また、発光スキルの場合も似たようなものです。消費する魔力量を様々な条件で変更することは可能ですが、同一の消費魔力に対する発光量については永久に一定です。
このように、ほとんどのスキルが持つ法則性というのは、常に一定です。
しかし、一部のスキルはこの法則性が崩れます。使えば使うほど、性能が変化し、効果が上がるものも存在するのです。
実は私もそのようなスキルをいくつか所持していることが、文献を読み漁った結果分かっています。今の所、変化は起こっていませんが。
ただ、スキルを使用するほどに効果が高まり、時には異なる名前のスキルに変化することさえあるというのは確認済みの現象なのです。
そして、カルキュレイターというスキルについては未確認ですが、成長性があると考える方が自然です。
何しろ、元々は女神様が与えてくれたチートスキルなのですから。まさか、簡単な四則演算が出来て終わり、なんていうしょうもないスキルであるはずがないのです。
つまり私は、女神様から貰ったチートスキルが弱いはずがない、という仮定から逆算し、カルキュレイターというスキルの成長性、そして最終的な性能について仮説を立てたわけです。
そして、この話は既に単なる仮説ではありません。
「実は、今まで有咲さんにお店の手伝いをしてもらっていたのもカルキュレイターというスキルの為だったりします。レジ打ちというシンプルな計算行為を続けることで、カルキュレイターの成長を促していたんですよ」
「ほうほう。それで、結果は?」
シュリ君が興味深そうに、話の続きを促してきます。
「恐らくですが、成長性があると思われます。最初の頃の有咲さんは、簡単な計算でも暗算に時間が掛かっていました。しかし、今では値段の違う照明魔石を複数バラバラに並べても即座に値段を計算してくれます。私よりも素早く正確に計算できるようになっているんです。これは、恐らくカルキュレイターが成長したという証拠でしょう。まあ、実は有咲さんに暗算の才能があり、最近になって開花したという説も無くはありませんが」
「まあ、そうだね。確定は出来ないけど、成長性がある可能性は高いね」
シュリ君も、私の説に同意してくれます。
「で、そこまでしてカルキュレイターのスキルを強化して、オトギンは何をするつもりなのかな?」
「それについては未定ですね。というより、正確に言えば『何でも出来る』と言った方が近いかもしれません」
私は、カルキュレイターというスキルが期待通りの性能を発揮した場合の未来について説明します。
「もしもカルキュレイターが『絶対に正解する』能力、私の世界で言うならばスーパーコンピューターさえ超える計算能力を持つのだとしたら。恐らく、私が想像できる範囲のありとあらゆる技術が実現可能となってしまいます。それは最早、予定を立てる必要すら無いものです。手当たり次第、効果的で優れた技術を実用化するだけの話になります」
シュリ君は顎に手を当て、考え込みつつ私の想定に評価を下します。
「なるほど。まあ、仮定に仮定を重ねた、甘い見通しだね。でも、ありえないわけでもない。それに将来的な展望はカルキュレイターがどの程度まで成長するスキルなのか、って部分にかかってる。結局カルキュレイターの成長性の程度に依存するんだから、道筋は立てようもないか。出来るとすれば、有用そうな技術に優先順位をつけて、どこからカルキュレイターの力で未解決問題を解消するのか決めておくぐらいかな」
「ですね。私もおおよそ、そのような計画を立てています」
これで、私の計画については納得してもらえたでしょう。
実際、シュリ君は満足したような笑みを浮かべて頷いています。まあ、マルクリーヌさんと有咲さんは話に完全にはついてきていない様子ですが。この場では、シュリ君に理解してもらうのが最も重要です。今はお二人の理解を深める必要も無いでしょう。