21 おっさんの壮大な計画
シュリ君の絶叫に、マルクリーヌさんと有咲さんが驚いたような顔をしています。確かに、突然上げるにしては大きすぎる声でした。
しかし、構わずシュリ君は興奮しっぱなしです。頭を抑えて、興奮のままに語り続けます。
「なんてことしてくれるんだよ、オトギン! もしそれが本当に実現できるなら、冗談じゃなく付与魔法の歴史が変わるよ! いや、世界が変わると言ってもいいね! 誰もが実現しようとして、結局出来なかった夢の技術が、まさか現実のものになるなんて! ほんと信じられない! どうかしてるよ、このおっさん!」
「なんだか褒めてるのか貶めてるのか分からない言葉が混じっていますが、ありがとうございます」
「褒めてるんだよ! いや、褒めてるっていうか、信じられなくて動揺してるっていうかさぁ!」
シュリ君は興奮したまま語ります。が、マルクリーヌさんと有咲さんはまだ納得していない様子。シュリ君の奇怪な行動に、訝しげな視線を向けます。
「さあ、シュリ君。他二人にも分かるように、説明してくれませんか? 答え合わせと行きましょう」
「ああ、うん。そうだね。ボクもオトギンの考えを、直接確認しておきたいし」
そう言ってから、こほん、と咳払いをしてシュリ君が説明を始めます。
「まず、この照明魔石は『蓄光』と『発光』の二つのスキルのお陰で成り立ってるわけだけど、それはお二人も理解しているかな?」
シュリ君の言葉に頷く女性二人。そのまま、シュリ君は気分良く解説を続けます。
「今回、重要なのは『蓄光』スキルの仕組みだね。浴びた光を魔力に変えて蓄える。シンプルなスキルだけど、実は昔から研究はされていたんだよ。ヒカリゴケからどうにかしてエネルギーを取り出せないか、ってね。まあ、取り出せはしたんだけど。ヒカリゴケ自体が魔力を使うし、元々の蓄積量も少ない。大量のヒカリゴケを栽培までして得られる魔力としてはあんまり旨味が無い感じだった。だから、ヒカリゴケから魔力を得るという研究については凍結されたままだった」
なんと、そんな先行研究が存在したのですね。私は知りませんでしたが、確かに言われてみれば誰もが考えるでしょう。
蓄光でエネルギーを蓄えるヒカリゴケ。そのエネルギーを利用できれば、魔石を動力にする魔道具の動力源を、冒険者が狩る魔物に頼る必要が無くなります。
しかしヒカリゴケは植物。寿命もあり、栽培し続けるにはコストもかかります。その上、直射日光下での栽培には適さず、寿命も縮み、繁殖力も弱まります。日光から得られる魔力と栽培コストを考えると、旨味が無かったという話にも頷けます。
「でも、そんなヒカリゴケの欠点をオトギンの作る照明魔石は解消しちゃったんだよ! 栽培する必要が無い。一度作れば物質として風化して壊れるまで機能し続ける。蓄えられる魔力量もヒカリゴケより多い。そして、魔石は非生物だから魔力も消費しない。蓄光スキルで蓄えた魔力を、そのまま全て利用できるわけなんだよ!」
そうです。シュリ君の言う通り、私の作った照明魔石はヒカリゴケの欠点を克服した魔道具です。
それは蓄光という観点に絞っても同じで、実際にあらゆる点でヒカリゴケより優れています。なので、蓄光で得た魔力をどこかで再利用する、という話も現実的になってきます。
「つまり、乙木殿の作った照明魔石は、何度でも使える魔石に変わったも同然ということですか!」
ようやく合点がいったように、マルクリーヌさんが声を上げます。これにシュリ君は頷き、さらに説明を続けます。
「その通り。そして、魔石から魔石に魔力を移す技術は既に十分実用レベルで世界的に普及しているからね。膨大な数の、蓄光スキルを付与した魔石を用意すれば、半永久的に日光から魔力を得続ける事ができる。もう、ここまで言えば分かるよね? 付与魔法に必要な莫大な魔力を賄うことさえ、不可能じゃないんだよ!」
「そのとおりです、シュリ君。大正解です」
私が肯定することで、シュリ君は安心したように頷きます。
「やっぱり、オトギンの狙いはそれだったんだね」
「はい。莫大なエネルギーの供給さえ可能となれば、付与魔法をするのは私である必要はありません。ですから、まずは蓄光スキルを付与した魔石、いうなれば蓄光魔石で魔力を生み出すだけの工場を作れば良いのです。一度エネルギーの問題さえ解決してしまえば、蓄光魔石を工場で量産することもできます。人類が利用可能な魔力の桁が爆発的に増えていくことになります」
使える魔力量の桁が増える。それで出来ることは、付与魔法の革命だけではありません。恐らくエネルギー量の壁という問題で実現できなかった、様々な技術が実現可能となるはずです。そして新たな技術から新たなアイディアが生まれ、加速的に技術は進歩していきます。
正に、世界が変わる一手というわけです。
「そのためにも、莫大なお金が必要です。まず作るべきは魔力を生み出すだけの工場。蓄光魔石から魔力を取り出す大規模な工場を作ります。次にこの魔力を元に、私抜きで可動し続ける魔道具工場を作ります。私だけでは実現不可能な量の魔道具を生産していく予定です」
「そのために、お金を国から貸して欲しいってわけだね?」
「はい、そのとおりです」
これで、話が元に戻ります。元々、私がなぜお金をたくさん欲しがるか、という話でしたね。これで、皆さんにも理解して頂けたかと思います。