17 子ども達の未来
結局、子ども達と小一時間ほど遊び続けました。と言っても、ほぼずっと私が追いかけられていたのですが。
最後には私が降参する形で、追いかけっこから抜け出しました。今はイザベラさんと一緒に、子ども達が駆け回る姿を見守っています。
「子ども達は元気ですねぇ」
「ええ。いつも元気よく、遊び回っているんですよ。お蔭で、見ているこちらまで元気が出てくるような気がします」
「確かに。元気のよい子ども達の姿というのは、良いものですね」
私とイザベラさんは頷き合います。しかし、本当に子ども達の姿を見ていると癒やされますね。心安らぎます。もちろん、健全な意味で。
と、ここで私はイザベラさんからあることを訊き出します。
「ところでイザベラさん。幾つか訊いておきたいことがあるのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「裁縫の得意な女の子が、元々はローブを作り始めたのだと仰っていましたね?」
「はい。ローサという子なのですが、孤児になる前に母親に教えて貰ったことだったみたいで。ここに来てからは、ずっと裁縫ばかりしていたんです」
「なるほど、そういう経緯だったのですか。のめり込むのも当然でしょうな」
私は言いながら、別の事を考え、次の質問を口にします。
「元々は孤児ではなかったということは、ローサさんは最近になってご両親を亡くされたのですか?」
「はい。このご時世ですから、魔王との戦争で父親を亡くす家庭が後を絶ちません。そうなれば、女手一つで子どもを育てなければなりません。無理が祟った母親が病気や事故で亡くなることも少なくないので、結果的にローサさんのような子が増えているんです」
おおよそ、予想した通りの答えでした。
この孤児院を見る限り、子ども達の数が多すぎます。そして今は戦時中です。孤児が増えている理由は、火を見るよりも明らかです。
しかしそれでも確認をしたのは意味があります。ほぼ間違いない予想と実際に確認された事実では、重みが違いますから。ようするに、情報としての信頼性の違いです。私はより確実な『これからも孤児は増え続ける』という情報が欲しかったわけです。
なにしろ、私はこれから孤児たちを労働者として利用していくつもりですから。労働力が安定して供給されるかどうかは重要です。
そして前提からして、戦争が続く間は孤児は増え続けるでしょう。
増える以上、その労働力を利用しない手はありません。それに、仕事があれば子ども達も助かることでしょう。決して、悪いように扱うわけではありませんから。
確認したいことの一つは確認できたので、今度は別の話題を口にします。あたかも気まずい話題を逸らすような流れで、話題を変えます。
「ところで。ローサさんのように、何か特技のある子どもは他にもいらっしゃるんですか?」
「えっと、はい。そうですね、いろんな子がいますから。花を育てるのが好きな子や、リーダーシップがあって、面倒見のいい子もいます。今、子ども達の遊びを纏めているのがその子ですね。ジョアンという子です」
庭を駆け回る子どもの中でも背が高い男の子を視線で示しながら、イザベラさんは紹介します。
なるほど。私を追いかけっこに巻き込んだ男の子がジョアン君ですか。
その後も、私はイザベラさんから子ども達の特技について詳しく訊き出しました。
理由は単純。子ども達を、そのまま専門職として得意な仕事に専念してもらう予定だからです。
将来的に、私の店で扱う品物は多岐にわたる予定です。その際に必要な品物の製造者として、子ども達の中に適任がいれば、そのまま任せてしまおうと思っています。現在はローブだけなので、適任者は裁縫のローサさんだけです。しかし、例えば薬草栽培をお願いするなら花を育てるのが好きな子に任せたほうがいいでしょう。
また、いずれは仕入れや配送の仕事も子ども達に頼む予定です。そうなると、まとめ役としてジョアン君のような子が居ると助かります。
まあ、全てはまだ予定。遠い未来の話です。今はまだ、そういった可能性があるというだけに過ぎません。
しかし、可能性の程度については先に品定めしておいた方がいいのも事実です。
とまあ、色々な魂胆がありますから、今後はこの孤児院と深くお付き合いしていく必要がありそうですね。
ふふ。子ども達の将来が楽しみになってきました。是非、よい人材に育って欲しいものです。
そのためには、私の方からも助力は惜しみません。教育に必要な書物等も買い与えて、寄付という形で孤児院に渡していきましょう。お金が必要なら、これもまた寄付という形で協力を惜しみません。
あくまでも、自分が破産してしまわない範囲での話ですが。