16 洞窟ドワーフ、懐かれる
私はイザベラさんに案内されるまま、建物から庭へと出ました。そこでは、沢山の子ども達が走り回って遊んでいます。
「皆さーん! 少し集まってくださーい!」
イザベラさんが大きな声で呼びかけると、子どもたちは一斉に集まりだします。
「どしたの、せんせー?」
「おじさんだあれ?」
「洞窟ドワーフだぁ!」
子ども達がきゃいきゃいと騒ぎます。中には、私の外見を見て笑っている子もいるようです。どうやら、本当にこの世界では私の外見はウケが良いようですね。何だか得した気分です。
「こちらのおじさんは、乙木さんという方です。これから皆さんがお裁縫の時間に作ったものを、買い取ってくれることになっています。これから何度も顔を合わせることになるでしょうから、覚えておいてくださいね?」
イザベラさんの言葉に、子ども達は「はーい」と返事をします。小さい子はよく分かっていないようにも見えますが、十歳を越えたぐらいの子は理解して返事しているようです。
「それと、乙木さんはお裁縫に使う布まで寄付していただけます。これからは、ボロボロの布じゃなくて、ちゃんとした布でお裁縫ができるようになりますからね」
「ほ、ほんとですか?」
女の子の一人が、驚いたような顔でこちらを見ます。
「はい。本当ですよ。私の店でローブを販売する予定ですので。より良い商品を作って頂くために、こちらで素材は用意させて頂きます」
「あ、ありがとうございます!」
私が言うと、女の子は頭を下げて感謝してくれます。
「あの子は、お裁縫が好きでみんなのリーダーのようなことをやってくれている子です。元々、お裁縫の時間にローブを作るようになったのもあの子がいたからなんですよ」
「ははあ、なるほど。裁縫チームのリーダー、というわけですか」
良いことを聞きました。後でしっかりと仲良くなっておきましょう。
今日のところは個別に時間を取れないので、子ども達全体に覚えてもらうのを優先しますが。
「せっかくの機会です。私も子ども達の遊びに混ぜてもらえませんか?」
「ええ、仲良くなるにはそれが一番ですから。ぜひ、子ども達の相手をしてあげてください。きっと喜びますよ」
イザベラさんにも確認をとったので、私は子ども達の方へと歩み寄ります。
近づいて、まずはしゃがんで視線の高さを合わせます。
「こんにちは。はじめまして、ですね。私は乙木と言います」
「オトギ?」
「はい。言いにくかったら、略しておっさんとか、おっちゃんとかで良いですよ」
「おっちゃん!」
「おっさん!」
子ども達が楽しそうにオウム返ししてきます。元々はバイト先の女性の陰口で使われていたあだ名ですが、ここは印象深く思ってもらう為に有効活用していきます。
「私も皆さんと仲良くなりたいので、遊びに混ぜてもらっていいですか?」
「いいよ! じゃあ、追いかけっこの続きからね!」
遊びのリーダーらしい男の子が声を上げます。
いけませんね。シュリ君のせいなのか、少年がなぜだか性的に見えてしまいます。こんな変態性欲を持っていることを悟られてはなりません。ここはぐっと我慢です。普通のおっさんに擬態しましょう。
「追いかけっこですか。私は追う側ですか? 逃げる側ですか?」
「えーっと、じゃあおっちゃんは逃げる方ね!」
「了解です」
言われて、私は立ち上がります。そしていつでも逃げられるように身構えます。
「さあ。いつでも逃げられますよ。どこからでも追いかけてきなさい」
「よーし! じゃあ、みんなかかれ~!」
なんということでしょう。男の子の号令で、子ども達はいっせいに私へめがけて走り出します。
驚きつつも、私は対処します。レベルのお蔭で高まった身体能力を活かして逃げます。
突然のスタートだったので危なかったですが、なんとか逃げられました。
「おっちゃんはや~い!」
「すご~!」
「きゃははは! 待って~!」
「洞窟ドワーフのおっちゃんを捕まえたやつが、今日の一番な!」
遊びのリーダーの少年が言うと、子ども達はいっそう元気に私を追ってきます。どうやら、洞窟ドワーフみたいな私を追いかけるだけで楽しいようです。
まあ、確かに空想上の生き物が目の前にいたら興奮するでしょうね。蝶やトンボを追いかけて遊ぶのに似た感覚なのでしょう。
さて。では私も、子ども達の思い込みに乗ってあげましょう。
「ふふふ。捕まえてみなさい。この私、洞窟ドワーフを捕まえた勇者には良いものを差し上げましょう」
「うわ! 本当に洞窟ドワーフだったんだ!」
「いいものってなあに?」
「お菓子ほしいな~!」
「お菓子!」
勝手に子ども達の間で盛り上がり、お菓子をあげることが決まってしまいました。お菓子は持ってきていないので、困りましたね。