05 勇者召喚のボーナススキル
気がつくと、真っ白な空間に立っていました。
周囲には、大勢の高校生。制服が六ツ賀谷高校のものばかりです。
中には大人の姿もあります。が、高校生に声を張り上げて指示を出しているので、恐らくは高校教師なのでしょう。
そして、私の近くに有咲さんは居ません。もちろん、男三人もです。
私が周囲を観察していると、不意に声が響きます。
「よくぞいらっしゃいました、勇者の皆様」
それは、耳に馴染む優しげな女性の声でした。
しかし突然のことだったので、高校生たちは慌ててしまいます。
まあ、いきなり声だけ聞こえたら驚くでしょう。しかもこんな意味不明な景色の場所ですから。突然場所を移動して、姿の見えない誰かの声が響く。子供には刺激が強すぎますね。
客に突然殴られたり、姿の見えないクレーム相手に戦ったりしたコンビニ店員の私にとっては大したことじゃありません。
「まずは落ち着いてください。皆様の状況について説明致します」
女の人の声が丁寧に高校生たちを宥めます。声の優しさもあって、次第に誰もが落ち着きを取り戻します。
場が静まり返ってから、また声が響きます。
「皆様の住む世界とは、異なる次元に存在する世界があります。今、その世界では魔王が現れ、人々が脅威にさらされています。そこである国が異世界から勇者を召喚し、魔王に対抗する戦力とすることを決定しました」
「まじかよ、勇者召喚! クラス転移ってやつじゃん!」
高校生の、誰かが声を上げます。周囲の皆が睨みを利かせたので、すぐにその子は黙ってしまったようです。
「そして勇者召喚の儀式を行い、集められたのが皆様なのです」
「ちょっと待ってくれ!」
一人の男子高校生が声を上げます。金髪ピアスなのに、どこか真面目そうな顔立ちの青年です。
「そもそも、俺たちは勇者なんかじゃない! 普通の高校生だ! その、魔王とかいうやつと戦わせられるなんてごめんだ! 戦う力なんてないし、そんな経験もない平凡な高校生が、急に魔王とか何だとか、受け入れられるわけがない!」
「ごもっともな話です」
女の声が悲しげに響きます。
「しかし、召喚をしたのはかの国の者たちです。そして、私はそれを止めることは出来ない。皆様を元の世界に戻すこともできない」
「あの……声の人は、いったいどこの誰なんですか?」
女の子の声が、素朴な質問をします。見ると、なんと今日のお昼に私を労ってくれた女の子です。
「私は、皆様が召喚される世界を管理する女神です」
その回答があったと同時に、場がざわつきます。
何しろ、相手は女神です。しかも、その女神ですら私たちを元の世界に返せないと言っていました。
となると私たちは、もう二度と元の世界に帰れないかもしれないのです。動揺するのが当たり前でしょう。
私は残してきたものなんか無いので特に問題はありませんが。
あぁ、鍋に味噌汁が残っていましたね。勿体無いことをしました。こんなことなら、昨日は二杯飲んでおけばよかった。
「皆様が私の世界に来ることは、既に確定しています。止めることはできません。ですが、皆様が私の世界で生きやすいよう、特別な力を授けることは出来ます」
女神様は、どうやら話を続けるようです。
「私の世界には、魔法やスキルといった特別な力が存在します。皆様には、そうした特別な力を手に入れた上で召喚されることになります。魔物の徘徊する私の世界で、その力は生きる助けとなるでしょう」
「やっべぇ! チートスキルじゃん! やった!」
また、どこかの男子生徒が興奮して声を上げたようです。やはり一同が睨みを利かせます。
「確かに、皆様の世界の言葉で言えば、チートスキルというものに該当します。私が与える力は、とても強いものになりますから」
どうやら、騒いだ少年の言ったことは間違いでは無かったようです。
「では、皆さん。順番に名前を呼びますので、呼ばれた人は挙手をしてください」
こうして、女神様による特別な力、チートスキルを貰う時間が始まりました。
本日の連続投稿はここまでとなります。
明日以降も、一日五回の投稿が続きます。
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