15 孤児と契約
私が提案した話を、イザベラさんは本心から喜んでくださっているようです。
孤児院の子ども達が手に職をつける為の裁縫が、これからはお金になるのです。当然、それだけで喜ぶに値します。
また、定期的に仕入れを約束するということは、定収入の約束でもあります。孤児院の運営を考える上でも、助かる話でしょう。
「それでは、詳細な部分について話を詰めていきましょうか」
「はい!」
私が言うと、イザベラさんは嬉しそうに頷き、返事をします。
そして、今回の契約についての詳細な話を詰めていきます。
まずは、仕入れの数について。
これは、出来上がったものから順次買い取っていく形にします。恐らく、大量に作るということは難しいでしょうから。ローブを作るのはまだ子どもですし。それに、私としても早さより丁寧さを優先してもらおうと思っています。
そして仕入れ値ですが、一着につき一般的なローブの半額程度で仕入れることにしました。仕入れ値としてはかなり高額な設定なので、イザベラさんは驚くどころか、遠慮するほどでした。
が、この設定にも意味はあります。私の見立てでは、今後この孤児院の子ども達の人材としての価値は高くなります。なので、これは先行投資でもあるのです。
また、私が実際に売るのはただのローブではなく、魔道具となったものです。その時の売値で換算すれば、実は仕入れ値は一割にもなりません。そう、ボッタクリなのです。素材となる布をこちら持ちで用意しても、有り余る利益率となります。
ただ、その辺りを説明するわけにもいきません。より好印象でいてもらいたい為、相場より高い仕入れ値は孤児院への寄付の意味合いもある、という説明をしました。
「本当に、重ね重ねありがとうございます!」
イザベラさんが深々と頭を下げ、感謝の言葉を口にします。ここまで感謝されてしまうと、実はボッタクリ価格なのだというのが申し訳なく思えてきます。
しかしここは我慢です。孤児院は相場より高くローブを売れる。私も高い利益率で商品を売れる。お互いに得をする関係なのですから、問題ありません。
他にも細かな話を幾つか取り決めて、この日の商談は終了しました。
「ひとまず、契約についてはこのような形でかまいませんでしょうか?」
私は、持参した紙に書いた契約内容の詳細をイザベラさんに確認してもらいます。
「はい、これで問題ありません」
「では、これで契約成立ということで」
契約が成立したので、もう一枚の紙に同様の内容を書き写し、両方にお互いのサインをした後、捺印します。私の方は、この数日の間に木を彫って作った自作の印鑑です。
これで契約完了。二枚の契約書を、互いに一枚ずつ手に取ります。
「さて。これで契約は完了ですが、その前によろしければ子ども達と会わせて頂けませんか? 今後、仕事を任せるものとしては気になりまして」
「ええ。是非会ってくださいませ。みんな元気で、良い子たちばかりですから」
イザベラさんの笑顔から、どれだけ子どもが好きなのかが伝わるようです。それに、これだけ愛されながら育つ子どもたちですから、実際に良い子に違いないでしょう。
これは、期待が持てますね。
なにしろ、今後この孤児院の子ども達には、様々な仕事をしてもらうつもりなのですから。
今はまだ計画の段階ですが、将来的には孤児院の子どもたちを教育し、より私にとって都合のいい人材に育て上げ、労働者として雇うつもりです。
そう言うと悪い企みのように聞こえます。が、実際は基礎教育を施して労働者として雇うだけです。悪いどころか、むしろ孤児の未来を明るくする善行とすら言えるでしょう。
とはいえ、一方的に利用するつもりの私が言うのも問題がありますね。
何にせよ、私はこの孤児院の子ども達を利用するつもりなのです。ですから『良い子』であるのはとても都合が良いわけです。
さて、ご対面と行きましょうか。
大変お待たせいたしました。
ここ十日ほど、体調を崩して執筆が出来る状態にありませんでした。
年末故に仕事も多く、しっかりと休むこともできず、ずるずると執筆の出来ないような状態が続いていた為、ストックが無くなり更新が途絶えてしまいました。
毎日の更新を楽しみにして下さっていた皆様には、本当に申し訳なく思っております。
今日ようやく熱も引き、喉や身体の痛みも大分収まった為、執筆を再開致しました。
可能な限り毎日更新のペースに戻していこうと思っております。
今後共、どうか当作品を宜しくお願い致します。