14 ボロ布の仕入れ
新人さんにボロ布ローブを売りつけた翌日。私は日中の暇な時間を有咲さんに任せ、とある場所に向かいます。
商店街を抜け、住宅街も抜けていきます。やがて土地が安く、貧乏な人が住むようなエリアに入ります。
そして事前に聞いてきた道順通り、とある建物を目指します。
「ここですか。思ったよりも立派な建物ですね」
そして私が到着したのは孤児院。そう、ローブ店にボロ布ローブを卸していた、あの孤児院です。
しっかりとした、石造りの大きな造物がまるまる孤児院として使われているようです。そして裏手には、かなり広い土地が広がっています。
これらも全部、孤児院の土地でしょう。子供を育てる場所なのですから、遊び場となる広い庭も必要です。
さらによく見ると、孤児院には十字架や翼の生えた人間の像が飾られています。察するに、宗教施設も兼ねているのでしょう。何かしらの宗教団体の社会貢献の一環であり、信者獲得の為の戦略でもあるのでしょうね。
「あら。何か御用ですか?」
私が孤児院をじっくり観察しているところに、背後から声が掛かります。振り向くと、そこには修道女らしい服装に身を包んだ女性がいました。
「ええと、どちら様でしょうか?」
「私は、この孤児院で院長を務めております、イザベラと申します」
女性――イザベラさんはニコリと笑いながら頭を下げます。優しい雰囲気の女性で、しかも美女です。私も礼儀を払い、丁寧に頭を下げます。
「これはこれは。申し遅れました、私は乙木という者で、今は冒険者向けの魔道具店を営んでいる者です」
「はぁ、冒険者様向けの」
私の自己紹介にピンと来なかったのか、イザベラさんは首を傾げます。確かに、孤児院と冒険者向けの魔道具店に何の関係があるか、と考えれば首も傾げたくなるでしょう。
なので、私は早急に用件から話してしまいます。
「実は、こちらの孤児院で冒険者向けのローブを縫って店に卸しているというお話を訊きまして。そこで、私の店の方にもローブを卸して頂けないかと考え、お話に参ったのですが」
「まあ、そうだったのですか。あのローブを買い受けて頂けるのであれば、是非。どうぞ乙木様、詳しいお話は中で致しましょう!」
私があのボロ布ローブを買い取ってくれる、実質的な寄付をしてくれる人間だと気づいた途端、イザベラさんの態度が変わります。ぐいぐいと、私を逃さないとでも言うかのように孤児院へと引き込みます。
綺麗な女性に捕まるのであれば、本望ですね。この流れに従いましょう。
私はイザベラさんに手を引かれるまま、孤児院へと入ります。
「ひとまず、お話は院長室でお聞きします。そこであれば、子どもたちが入ってきて邪魔をするということもありませんので」
「なるほど。しかし、話をしているところにも入り込むのですか。元気があって良いではありませんか」
「そう言って頂けるとありがたいです。商人の方にはお怒りになられる方もいらっしゃるので」
商談の席に入られるのが癪だったのでしょうね。けれど、子供に大人並みのマナーを期待する方が無茶というものです。むしろ好奇心旺盛で、将来有望な面白い子だと言えるでしょう。
その後、特に子どもたちから絡まれることもなく、院長室に到着します。子どもたちは私の方を興味深そうに見ていましたが、話しかけてくる様子はありませんでした。恐らく、院長であるイザベラさんのお客さんだと理解していたのでしょう。
「さて、乙木様。さっそくですが、うちで作っているローブについては既にご存知ですか?」
院長室で互いに席へ座り、話を始めます。切り出しは、ローブについてです。恐らくは、孤児院で作っているのがボロ布のローブであることを事前に確認を取り、トラブルを未然に防ぐための質問でしょう。
「もちろんです。既にローブ店で何着か購入し、うちの店で魔道具として売っているところですから」
「まあ、そうだったんですか。それはありがとうございます」
またイザベラさんは頭を下げる。仕事上の会話とはいえ、イザベラさんは本当に嬉しそうに微笑んでくれます。会話していて楽しいタイプの女性ですね。
「ですが、申し訳ありません。今回私が卸していただきたいのは、ボロ布のローブではないのです」
私が言うと、イザベラさんはきょとん、とした表情で首を傾げます。
「あの、うちではその、古布を再利用したローブしか作っておりませんので」
「はい、理解しております。ですから、こちらでご用意させていただきます」
「は、はい?」
イザベラさんは意味が理解できなかった様子です。ならば、もう一度わかりやすく、はっきりと言いましょう。
「ですから、布はこちらで用意致します。その布を、孤児院の皆さんでローブに仕立て上げて下さい。もちろん布の代金は取りませんし、仕上げた着数と品質に応じて十分な賃金を支払うとお約束します」
私が説明をはっきりすると、イザベラさんの顔が途端に喜色に染まります。
「まあ、まあっ! なんて、素敵な提案でしょうっ!」
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