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13 新人冒険者の背伸び




 ガイアスさんが来店してからというもの、一気に客足が増えました。当日の夕方ごろには噂を聞いた冒険者が足を運びはじめ、その後の数日間は冒険者さんの来店は増える一方でした。


 私と有咲さんでひたすらに会計をすませていきます。それでも客足が収まるまでは何時間も掛かるような状態でした。夕方になるとまた客足が増え、そして夜にはすっかり暇になります。

 この時間になってやっと余裕が出来るので、店内の清掃や商品の並べ直し等をしていきます。この作業は夜間業務ですので、有咲さんは関わっていません。二十四時間働ける私だけですませてしまいます。


 そんな日々が一週間ほど続くと、客足も少しずつ落ち着いてきました。元々の値段がそれなりに高いこと、そして一度買えば当分は買い足す必要がないこともあって、少しずつお客さんが減ってきます。

 この頃には、用意した照明魔石の約半数ほどが売れていました。もしかしたら多少は窃盗の被害に遭っているかもしれませんが、基本的に私が目を光らせていたので大丈夫なはずです。


 そして完璧に客足が落ち着くと、一日通してちらほらと客が来る程度になりました。それでも日に五、六個は売れます。値段や金銭状況を理由に買えなかった冒険者さん達でしょう。


 また、冒険者さんの間で話題になったお陰か、一般のお客さんも来るようになりました。

 冒険者さんと違って、一般の方は安くて長持ちする油のランプを使っています。けれどそれでも手入れの手間などを面倒がる人はいます。恐らくはそういう人達が、照明魔石を買い求めにやってきます。


 そうして客足も落ち着いてきた、開店から二週間ほど経ったある日。ちょっと気になるお客さんが来店しました。

 真新しい装備に身を包んだ冒険者さんが三人。見た目も若く、有咲さんよりも年下ぐらいに見えます。

 そんな若い冒険者さんが、魔石を見て回っては、ため息を吐くのです。


「どうなさいましたか?」


 私はその三人のお客さんに声をかけます。


「えっと、あの。実は噂の照明魔石を買いたいと思って」

「そうでしたか。こちらにあるのがその照明魔石になります。お試しになりますか?」

「いや、いいです。なんか高くて、俺たちじゃ手が出ないなぁ、なんて。なぁ?」


 お客さんの一人が言うと、他の二人も頷きます。


「ちなみに、ご予算はいくらぐらいでしょうか?」

「えっと、所持金は三人合わせて銀貨十枚あるんだけど、でもまだローブを買わなきゃいけないので」

「ふむふむ、なるほど」


 おおよそ状況が理解出来ました。つまり彼らは新人冒険者。装備を一式整えるついでに照明魔石も買おうとしたものの、ローブを買う分を含めると予算が足りない。そういうことでしょう。

 これは、好都合ですね。


「でしたら、こちらのローブなどはいかがですか?」


 私は、店の隅に置いてあるボロ布ローブを紹介します。新人冒険者さん三人は、眉を顰めます。


「さすがに、ローブは実用的なものを買いたいので」

「おや、そうですか。しかしこちらのローブはちゃんと実用的ですよ。内ポケットもついていますし、フードもあります。色合いも森に紛れるのにちょうどよいと思いますが」

「でも、その、すぐ壊れそうなものはちょっと」


 狙い通りの反応を返してくれますね。売り込みのやりがいがあります。ここが攻めどころでしょう。


「そうでしょう、そうでしょう。すぐ壊れるものは皆さんお嫌いですからね。このローブは、しっかりその点も考えられておりますとも」

「はぁ。どういうことですか?」

「実はこちらのローブは魔道具なのです。実際に、見てもらったほうが早いでしょうね。まずは私が着てみましょう」


 そう言って、私はボロ布ローブを身に着けます。


「では、早速ですがお客様。その剣で私をローブの上から斬りつけてみて頂けませんか?」

「ええっ! そんな、まずいですよ!」

「問題ありません。このローブは魔道具ですから。それに、私自身もステータスがかなり高いのです。新人さんの攻撃では、びくともしませんよ。


 そう言って、私はステータスプレートをお客さんに見せます。三人共驚いたような顔をして、互いに顔を見合わせます。


「て、店員さん。どうしてそんなに強いのに魔道具店を? 冒険者になったほうが絶対いいですよ!」

「昔は、冒険者をしていましたよ。訳あって今は魔道具店を開いていますが」


 嘘ではありません。昔と言っても、ついこの間のことですが。

 けれど意味ありげな私の言葉から、勝手に何かを察してくれた三人は押し黙ってくれます。そして私のステータスを信頼してくれたのか、ようやく一人が頷きます。


「分かりました。店員さんの強さと、その魔道具を信じてみます」

「はい。遠慮なく斬りつけて下さい」

「では、いきます!」


 新人冒険者さんは剣を抜き、そのまま私へと横薙ぎに斬りつけてきます。

 すると剣はボロ布ローブに当たった瞬間、ぼすっ、という音を立てて静止します。


「えっ、あれ?」

「なんだこれ! すげー!」

「どうなってんのっ?」


 三人の冒険者さんが口々に驚きの声を上げます。


「ご理解いただけましたか? こういう魔道具なので、簡単には壊れません。むしろ普通のローブよりも遥かに長持ちするでしょう」


 私はローブの宣伝をすかさず口にします。実際、このローブは私が冒険者として活動する時に使うローブと同じスキルを付与しています。防刃、衝撃吸収、形状記憶のスキルです。

 これらのスキルを付与したお蔭で、私は冒険者時代はずっと同じローブを使い続けることが出来ました。経年劣化による摩耗は多少あるのですが、それぐらいではすぐにダメになることはありません。


「こ、このローブはいくらなんですか?」


 新人冒険者さんの一人が目を丸くしながら訊いてきます。


「そうですね。こちらのローブはまだ商品としては試作品なので、実は値段をつけていないのですよ」

「そうなんですか?」

「はい。ですので、皆さんには照明魔石一つとこちらのローブ三枚をセットでお買い上げいただいて、お値段は据え置きの銀貨十枚、ということでどうでしょうか?」


 私が提案すると、三人は顔を見合わせます。そしてすぐにこちらに向き直り、勢いよく頭を下げます。


「それでお願いします!」

「ありがとうございます!」

「大事に使います!」


 それぞれ別々のお礼を言ってくれます。こうして感謝されるのは気持ちがいいですね。


「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます」


 お買い上げいただいて、というのもありますが。こちらにも魂胆がありますからね。

 新人がボロ布ローブを着ていれば、当然目立ちます。それはつまり、このボロ布ローブがただのボロ布ではないことがすぐにバレるということになります。

 やがて、少年たちにボロ布ローブを買った店を訊く冒険者も現れるでしょう。そうなれば、次の稼ぎ時です。


 まあ、今回は分かりづらい仕込みですから、すぐに売上につながるというわけではありません。気長に待ちましょう。

 そして待っている間に、いつ売れ始めても良いように準備を済ませましょうか。

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