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12 閑古鳥




 いよいよ店を開けました。これから私の魔道具屋としての日々が始まります。

 が、初日はさすがにお客さんが来ません。誰も知らない未知の魔道具店。入客数に期待できないのは当然です。


 そしてたまに入ってくるお客さんも、置いてあるのがクズ魔石とボロ布ローブだと分かるとすぐに出ていきます。みな一様に怪訝そうな顔をします。

 まあ、当然の反応ですね。魔道具に見えないゴミ同然の物体が置かれているだけですから。


「おい、おっさん。暇すぎない?」


 とうとう有咲さんが限界を越えたのか、文句を言ってきます。


「いいことではないですか。働かずに給料を貰える。素晴らしい話です」

「いや、そうじゃなくて。この調子だと、赤字だよな? アタシに給料払えんの?」


 有咲さんの睨むような視線が私に飛んできます。


「まあ、このままの状態が続けば不可能ですね」

「ダメじゃん」


 私が正直に言うと、有咲さんはため息を吐きます。


「はぁ。こんなおっさんに期待するんじゃなかった」


 私の株価がぐんぐん下がっているように感じます。ここは一つ、頼もしいところを見せねば。


「大丈夫です。安心して下さい有咲さん。じきに照明魔石の噂は広まりますから。そうなればかなりの利益が見込めます。有咲さんの生活は保証しますよ」

「まあ、そういうことなら分かったけどさ。で、おっさんはなんで腕まくりしてガッツポーズしてんの?」


 有咲さんに指摘されます。私は頼もしさを主張するため、腕まくりして力こぶを作っているはずなのですが。どうやらガッツポーズに見えたようです。

 まあ些細な問題です。私の頼もしさは伝わったはずです。いそいそと捲った袖を元に戻します。


「ともかく、これから人が増えるのは間違いないはずですよ。何しろ、布石は打っておきましたから」


 私は言いながら、調子に乗りがちなCランク冒険者、ガイアスさんの事を思い返します。

 今日、私はここに店を構えたことで悪目立ちしたはずです。そして来店した冒険者によって、クズ魔石を売っているおかしな店、という噂が流れるはずです。


 その噂がガイアスさんの耳に届いたら、作戦は成功です。彼は間違いなく、私の照明魔石について噂を広めてくれるでしょう。そして照明魔石の話が広まれば、自然と冒険者さんが店に訪れます。そこで照明魔石の有用性を説き、売りつければ完璧です。

 後は放っておいても人気が上がっていきます。そのついでにボロ布ローブを新人や金欠の冒険者に売りつけたら完璧です。


 と、私が脳内で計画についておさらいしていたところ。店の扉を勢いよく開く人が現れました。


「おう、オトギ! てめえこんなところに店開いたのか!」


 ガイアスさんです。どうやら、もう噂を耳にしたようです。そして自分でも噂の店を確認する為に訪れたのでしょう。


「噂になってるぜ、オトギ。洞窟ドワーフそっくりのおっさんがクズ魔石をバカみてえな値段で売ってるってな」

「それは良かったです」

「あ? 良かねえだろ」


 私の意図を知らぬガイアスさんは、私の一言に首を傾げます。今はこの話題を掘り下げても仕方ないので、別の話題を振ります。


「それよりもガイアスさん。今日はどのようなご用件ですか?」

「おう。そりゃ決まってるだろ。例の光る魔石の感想だよ」


 そういえば、感想を教えて欲しいという建前で無理やり押し付けたのでした。


「いかがでしたか?」

「すげえ便利だったぜ。だから四六時中使ってたせいでよ、魔石一個じゃ足りねぇって話になってな。それに仲間内でも欲しがってる奴らが出てきてよぉ。てめえに直接、もっと作ってくれねえかって頼みに来たわけなんだわ」

「なるほど」


 既にガイアスさんの仲間内に話が広まっているようです。これは好都合ですね。


「実は、店に置いてあるクズ魔石は全部がその光る魔石になっているんですよ」

「なっ! マジかよ?」

「はい。小さいものは銀貨十枚から販売しております。どうなさいますか?」

「買った買った! デカイのを三つくれ!」


 早速、ガイアスさんが魔石を買ってくれるようです。私はちゃっかり銀貨二十枚の魔石を三つ用意します。


「大きいものは一つで銀貨二十枚です。合計で銀貨六十枚。構いませんか?」

「おう。こんだけ便利な照明がありゃ、探索がずいぶん楽になるからな。百枚出しても惜しくないぜ」

「どうもありがとうございます」


 そうして、ガイアスさんは支払いに金貨一枚を取り出しました。私はお釣りの銀貨四十枚を返します。ガイアスさんは銀貨袋にこれを片付け、最後に照明魔石を受け取ります。


「おいオトギ、こいつらちゃんと光るんだろうな?」


 ガイアスさんは、受け取ってからそんなことを訊いてきます。


「はい、当然です。なんなら、今ここで魔力を流してみて下さい。全ての魔石は多少の魔力をチャージしてありますので、ちゃんと光ってくれるはずですよ」


 私が言うと、さっそくガイアスさんは魔石を光らせます。三つの照明魔石がしっかり機能することを確かめると、にんまり笑います。


「こいつはいいな。すげえもんを買わせてもらったぜ」

「こちらこそ。お買い上げいただいて有難うございます」

「じゃあな、オトギ! こいつの噂、俺様が広めてやるからよ!」

「はい、宜しくおねがいします」


 こうして、ガイアスさんは店から出ていきます。照明魔石を気に入って頂けたみたいですし、噂も広めてもらえるようです。既に悪い噂が広まっている分、照明魔石の話題性はかなりのものになるでしょう。

 さあ、ここから巻き返していきましょう。

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