11 いよいよ開店
ガイアスさんに照明魔石を渡した後は、ギルドでクズ魔石を回収し、家に帰ります。そしてまた有咲さんと一緒に魔石に付与魔法を施しました。
そうして、ギルドに顔を出してクズ魔石を集めては付与魔法を施す日々が数日続きました。日中は廃材の木材を加工し、時には商店街で仕入れをして店内をそれらしく整えました。
その甲斐もあって、一階部分はかなりお店らしい体裁を整えることが出来ました。
こうなれば、いよいよ開店準備です。
まだ人通りもほとんど無い早朝から、私と有咲さんは起き出します。まあ、私はそもそも寝ていないので起きたのは有咲さんだけですが。
そして二人で協力し、店の外に看板を運びます。
「有咲さん。段差に気をつけてくださいね」
「おう。分かってるっつーの」
ここ数日で、すっかり有咲さんとも仲良くなりました。と言っても、自然な会話が出来るようになった程度ですけど。
しかしこれは大きな進歩です。私を警戒しているのか、常に緊張していた有咲さん。それが今では自然体で私に接してくれます。幼い頃の有咲さんを思い出して、なんだか懐かしい気持ちにもなってしまいます。
「おっさん、なんでニヤケてんの。キモいんだけど」
ああ、つい顔に出ていたようです。キモがられてしまいました。まあ私がキモいのは事実なので仕方ありませんが。
そうして元は長テーブルだった大きな看板を外に運び出すことが出来ました。
「で、どうやって取り付けんの?」
有咲さんがシンプルな疑問を口にします。
私も有咲さんも、工具は一切持ち出してきていません。あるのは脚立だけです。これでは、看板を高く掲げるぐらいしか出来ないでしょう。
しかし私には策があります。
「任せて下さい。今こそ、私の廃棄スキルの出番です」
「おお、なんか分かんねぇけど、すごいことするんだなおっさん!」
有咲さんが期待する目をこちらに向けてくれます。ふふ、たまにはこうして格好つけてみるものですね。
というわけで、私は看板を取り付けるため、あるスキルを発動します。人間であっても発動可能な、こういう時でもなければ使う価値の無いスキルです。
まずは有咲さんが持っている側の看板の端へと近寄っていきます。
「ペッ!」
そして、私はツバを吐き捨てます。
「は? 殺すぞ」
有咲さんがマジギレしました。
「いえ、待って下さい有咲さん。これには深い理由があります」
「いや、あっても殺すから。いきなりツバ吐くなよ。キモいから。マジ無理。キモいキモい死んでほんとマジ死んで」
ものすごく不評を買ってしまいました。まさかここまで否定されるとは。おっさんという生き物はいきなりツバや痰を吐く生き物なので、許してほしいところです。
「すみません、有咲さん。でも、これは必要なことですから」
「いや、必要とか関係ないから。普通に無理。キモい」
取り付く島もない状態です。このままいくら謝っても、効果は薄いでしょう。一方的に話を続けていきます。
「実は、この唾液はスキルで発生させたものなのです。その名も『粘着液』といいまして。くっつけて乾かしたら、頑丈に固まってくれるんです」
「だから何?」
「ですので、この粘着液で看板を接着しようかと」
「キッモい、無理」
全否定されました。仕方ありません。ここは無理を言ってお願いする他ありません。
「有咲さん、どうかお願いします。私一人では看板を上手く接着できません。なので、片側を掲げる役割を担って頂けないでしょうか?」
「チッ。いいよ、それぐらい別に」
「ほんとすみません」
「ツバ吐くのはキモいけど、仕事ぐらい手伝うっつーの」
「はい、すみません」
とにかく平謝りします。機嫌が悪い相手の威勢を削ぐにはこれが一番です。次第に有咲さんも機嫌を直します。と言っても、最悪が少し悪い程度に回復しただけですが。
ともかく、有咲さんにも納得してもらいました。私は看板の裏に次々と唾液を吐き捨てます。そして裏面がベチャベチャになったら、脚立を使って看板を入り口の高い場所に掲げ、接着します。
ツバが乾くまで同じ姿勢を要求されますが、私はステータスのお陰か苦しくありません。有咲さんはツバが嫌なのか、顔をしかめながら看板を持っています。
これも一種のセクハラになるのでしょうか。だとすると、これは後で本気の謝罪をしないといけませんね。
そんな事を考えながら、数分後。見事に唾液が乾き、粘着液スキルの効果でしっかりとくっつきます。手を離しても落ちてこないことを確認すると、作業完了です。
紆余曲折ありましたが、これでお店を開けますね。
いよいよ仕事の始まりです。





