10 仕込み
ボロ布ローブを購入した後、私は一通り商店街を見て回り、次の目的地に向かいました。
それは冒険者ギルドです。
実は今日もクズ魔石を分けてもらおうと思っています。また、可能そうならもう一つの目的も果たすつもりです。
ギルドに入り、まずは軽く人を探します。目的の人がいなければ、今日はクズ魔石だけを貰って帰るつもりです。
で、見渡すと見つかりました。私はその人の方へと歩み寄ります。
「こんにちは。ガイアスさん」
「お? なんだオトギじゃねぇか! どうした? この俺に訊きたいことでもあんのか?」
私が話しかけたのは、とある冒険者。名前はガイアス。
何を隠そう、私が新人マニュアルを読んでいた時に絡んできたベテラン冒険者です。
あのトラブルを収めてから後日、実際に私はガイアスさんから先輩冒険者の教えというものを学ばせてもらいました。まあ、内容は新人マニュアルとほぼ被っている程度でしたが。
そしてその時に知りましたが、なんとガイアスさんはCランクの冒険者なのだそうです。頭が悪くても冒険者は務まるという良い例ですね。私が冒険者という仕事の将来性を低く見積もる理由の一部でもあります。
しかし、それでもCランク冒険者というのは強い肩書きです。Bランク以上は特別な人しか到達できない以上、実質的に一般の冒険者の中ではCランクが最上位になります。その発言力、権威は凄まじいものがあります。
実際に、私はガイアスさんと仲良くすることで他の冒険者からも一目置かれている部分があります。この人を煽てるだけで、勝手に私の評価が高まるという寸法です。なんともまあ楽な話です。
そして今日も同様です。調子に乗りやすく頭が悪い。けれど発言力があって一目を置かれているガイアスさんを利用する為、ギルドに来たのです。
そうとも知らずに楽しそうに笑うガイアスさん。こうしていると意外と無邪気で悪いやつでもありません。いいように利用しているのが少しだけ申し訳なくなります。でも、それはガイアスさんの頭が悪いせいであって、私のせいではありません。
なので何の問題もありませんね。
「実は、今日はガイアスさんに使ってもらいたい魔道具を持ってきたのです」
私はすぐに本題を切り出します。そして、収納袋の中から照明魔石を取り出します。
「ん? なんだ、ただの魔石じゃねぇか」
「いえ、実はこれ自体が既に魔道具となっているんです。試しに、手に取って軽く魔力を流して見て下さい」
「おう、任せろ」
ガイアスさんは照明魔石を受け取ります。そして魔力を流しました。
当然、照明魔石はスキルの効果で発光を始めます。
「うおっ! なんだこれ、光ってるじゃねえか!」
「はい。その名も、照明魔石という魔道具です。魔力を流すことで灯りを点けたり消したりできます」
「マジかよ。すげえ便利じゃねぇか!」
「はい。使い心地について、是非先輩であり優れた冒険者でもあるガイアスさんから訊きたいと思いまして」
「がはは! そりゃいい考えだ! 俺は丁度、これからダンジョンへ行くところだからな。暫くは暗がりをほっつき歩くことになる。そん時にこの、照明魔石だっけか? こいつを使ってやるよ」
「有難うございます」
私はしっかりと頭を下げ、礼を言います。こうした態度を示している限り、ガイアスさんは調子に乗ります。こちらの都合で動かし易くなるというわけです。
「注意点としては、魔石の魔力が切れたら発光が収まるという点があります。連続して使用しても、普通の照明よりは長持ちしますが」
「なるほどな。使い捨てってわけか」
「いえ、実はそうでもないんです。照明魔石は日光を浴びると、魔力が補充されるようになっています。なので魔力切れを起こさないよう、小まめに陽の光を当てていれば、ずっと使い続けられますよ」
「それはまた、すげぇ性能だな」
ガイアスさんは、まじまじと魔石を見つめます。それだけの高性能な魔道具だというのが信じられないのでしょう。
「まあ、ともかくその辺の真偽も含めて、試してやるよ。近いうちにまとめて報告してやるぜ。感謝しな、オトギ!」
「はいもちろん。重ね重ね、感謝しております」
また私は頭を下げます。ガイアスさんは豪快に、満足げに笑います。
「がははは! そんじゃあオトギ。こいつは預かっとくぜ。またな!」
そして、ダンジョンへ向かうパーティメンバーが集まったのでしょう。男達が群れる方へと立ち去っていきます。
これで、重要な目的を達することが出来ました。
恐らくガイアスさんは、上手い具合に広告塔として機能してくれるでしょう。
彼は自信家であり、他人に偉ぶるのを好んでいます。なので、特別な魔道具を手に入れたとあれば、当然知り合いの冒険者に自慢して回るでしょう。
そして彼は、曲がりなりにもCランク。一般人の中では最上位の冒険者です。そんな人物が使い、性能を保証してくれます。普通に見る限りではただのクズ魔石に過ぎない照明魔石の信憑性を高めることになるでしょう。
何の手も打たなければ、照明魔石は怪しいクズ魔石に過ぎません。しかも銀貨十数枚というぼったくり価格です。新しく出来た魔道具店に、そんなものが置かれてあっても誰も手にしません。つまり売れません。
そんな状況を避けるために、今回はガイアスさんを利用させてもらいます。
利用料は、無償で譲った照明魔石で代えるものとしましょう。