07 価格調査
翌日。私は有咲さんにはお留守番をしてもらって、一人で商店街へと向かいます。
目的は、既存の照明器具の価格調査です。照明魔石を売るとしても、その適正価格を判断しなければなりません。適当な価格設定では、利益が小さくなってしまいますからね。
まずは冒険者向けの道具店です。冒険者は暗いダンジョンや洞窟、夜間等の暗い場所で探索を行うことがあります。なので、松明やランプ等、照明器具は必需品なのです。当然、種類も豊富で価格帯も様々。
一口に冒険者向けと言っても、最低のGランクからCランクまでが利用しますからね。それぞれに合わせた商品が存在する、というわけです。
私は順に棚を見ていきます。
安いものだと、ごく普通の松明があります。この辺りは使い捨て前提で、費用対効果で言えば安くないとも言えます。
ですが使うのは火です。火が苦手な魔物が出る洞窟の探索には有用です。そして、松明自体が棍棒のようにも使え、緊急時には武器にもなります。また、荒々しく使っても壊れず、燃え続けて照明としての役割を果たせる点も大きいです。
ランプ等は戦闘中は邪魔になりますが、松明は適当に足元へ投げ捨てておけば、あとで拾って再利用できます。その点を重視し、照明に松明を愛用する冒険者も多いです。
松明と同等に安いのが、油を使うランプです。実は、冒険者には余り人気がありません。
壊れやすく、手入れも必要なランプはガサツな冒険者には扱いづらいのです。しかも、戦闘中は邪魔になります。うっかり投げ捨てたら、すぐに壊れます。頑丈に作っても、油は液体なのですぐに溢れます。そうやってすぐ灯りが消えるので、冒険者はあまり使いません。
移動が少ない採掘系の作業が得意な冒険者は使うことがありますが、主流でないことには変わりありません。
一方で、油ではなく魔力で光るランプは人気があります。ただ、高額なので手に入れようと思えばかなりの貯金が必要です。
光る原理も、発光スキルではなく炎属性の付与による発火です。つまり、原理は魔法剣等と同じなので、絶対数が少ないのです。
それに、維持費もかなりかかります。魔力の補充に、魔石を必要とするからです。それも、こうした魔道具は魔力補充の魔石のサイズ、規格が決まっています。なので、自分で集めた魔石で補充、というのは難しいのです。
上位の冒険者であれば、魔石の魔力を移す技術を持っていたりします。そうなると、規格に沿った魔石を購入する必要がありません。結果的に維持費を節約出来ます。
一方で、無理をして魔力ランプを買った中位の冒険者が、維持費が出せずに結局売り払ってしまうことも多いです。
そして最後に、最も人気のあるランプ。ヒカリゴケのランプです。ヒカリゴケの生えた石を入れただけのランプですが、苔が死滅しない程度に気をつけてあげるだけで長期間持ちます。多少乱暴に扱っても平気で、油のランプより使い勝手も良いです。
値段はそれぞれの種類で大きく異なっています。また、同じ種類の照明でも品質によって値段が変わります。松明や油ランプは銅貨数十枚程度。ヒカリゴケのランプは銀貨数枚。魔力ランプは最低でも金貨からスタートです。多くの商品がその程度の価格帯に収まっています。
変わった形の商品は、中でも価格が高いです。例えば、鉄製の棍棒の先端に松脂を塗った布を巻く為の突起が付いている商品もあります。こういうものは、実際に使ってみると思ったほど便利ではないんですよね。この棍棒の場合、突起がすぐに折れてただの鉄棍棒になりそうです。使い回せる上に武器にもなる松明、とはいかないようです。
そもそも、張替えする手間をかけるなら、新しい棍棒を買ったほうが楽ですしね。手間をかけて節約するほど、松明は高額商品ではありません。
とまあ、おおよそ店内の照明関連の商品を見て回りました。
ひとまず、私の作った照明魔石と各種照明の価値を比較してみましょう。その上で、値段設定を考えてみます。
まず、照明魔石は松明と同等の使い回しが期待できます。魔石ですから、戦闘中は適当に放り投げて置いておけば良いのです。武器にこそなりませんが、使い勝手の良さは松明に匹敵するでしょう。
そして、明るさはヒカリゴケのランプ以上です。ヒカリゴケは体積が少ないので、光も弱いのですが、照明魔石はしっかり松明並みの灯りを灯します。
維持費に関してはヒカリゴケ以下です。維持の手間も、ヒカリゴケより楽なはずです。日光を浴びせたら、浴びせた時間の三倍から四倍は光り続けますからね。
そして、光り続ける時間は魔力ランプを大幅に越えます。炎を生み出す魔力ランプは、魔石の魔力消費が激しいのです。そのため、長くても五時間程度が光り続ける限界になります。
一方で、私の照明魔石は一日天日干しすれば何日も使い続けられます。曇りの日でも、日光を浴びせた時間の二倍から等倍程度は発光します。日の当たる窓際に照明魔石を幾つか置いておけば、それだけで魔力切れも無く使い回せるはずです。
こうして比べてみると、照明魔石の性能が圧倒的に高いですね。
でも、それも当然のことです。本来は、蓄光と発光のスキルは付与が困難です。自分のスキルを付与するのは簡単ですが、他人のスキルを付与するのは途端に付与魔法の魔法陣が複雑化します。必要な魔力も多くなりますし、発動する魔法の制御も難しくなります。
なので、植物系の魔物から蓄光スキルを、ヒカリゴケから発光スキルを付与するのは高いコストがかかります。当然、魔力ランプの魔石よりも貴重な品になってきます。
私が人間でありながら、この二つのスキルを持っているからこそ簡単に作れる魔道具なのです。
ちなみに、照明魔石を作る段階で有咲さんに手伝って貰うことが出来たのには工夫があってこそのことです。
有咲さんに私のスキルを付与してもらうとなると、魔法陣は複雑化します。なので、魔法陣は私が私のスキルを付与する形で描いて、魔力の消費先だけ受け身、つまり貰った魔力で発動する形にしておきました。
これは自分の魔力ではなく、魔石の魔力を使って魔法を発動する時に使われる魔法陣です。が、それを利用することで『有咲さんの魔力を使い、私が私のスキルを付与する』という形式を取ることが出来ました。
これにより、低コストで有咲さんが私のスキルを付与できたというわけです。
もちろん、この裏技は私だから可能な技です。ヒカリゴケにヒカリゴケのスキルを付与させることは不可能なので、発光スキルを普遍的に低コストで付与することは出来ません。蓄光スキルなら、知性ある植物型の魔物と仲良くなれば可能かもしれません。ただ、それを狙うのは他人のスキルを付与する魔法を使うより遥かに困難でしょう。