05 有咲とおっさんの現在ステータス
「おいおっさん。あんた強かったんだな」
有咲さんは私の後ろから、そう声を掛けてきます。声色は安堵に染まっていて、普段の有咲さんよりずっと優しい口調に聞こえます。ちゃんと姪っ子を守り、いい格好も出来たと思うと気分が良いです。
「まあ、これでも冒険者を三ヶ月ほど続けていたので」
私は、有咲さんの問いかけに曖昧に答えます。
「ふうん。それだけで、あんなに強くなれんの?」
「いえ、無理でしょうね。ですから真似しちゃダメですよ、有咲さん」
「子供あつかいすんなバーカ。で、実際どうやって強くなったわけ?」
「まあ、働いた分だけレベルが上がるスキルみたいなものがあるんですよ」
「は、マジ?」
有咲さんが驚き、疑ってきます。が、真実なので私は肯定の為に頷きます。
実際、私の今のステータスはこんな感じです。
【名前】乙木雄一
【レベル】112
【筋力】B
【魔力】B
【体力】B
【速力】B
【属性】なし
【スキル】ERROR
レベルの割にはかなり弱いのですが、それでも全てのステータスがBです。彼らは筋力EかD程度しか無いはずですから、体力Bの私にまともなダメージを与えられるはずが無いのです。
武器を使えば話は別でしょうが。まあ、そのときはこちらも相応の対処をするまでです。
「そういえば、有咲さんは勇者だったんですよね。あれぐらいのごろつき、ステータスの差で追い払えたのでは?」
「うっせえ。出来ねぇんだよ」
そう言って、有咲さんはステータスプレートを表示し、私に見せてくれます。
【名前】美樹本有咲
【レベル】8
【筋力】E
【魔力】A
【体力】E
【速力】E
【属性】なし
【スキル】カルキュレイター
レベルが一桁で、既に私の魔力を越えています。さすが勇者ですね。
しかしそれ以外の水準はあまり高くありません。まあ、Eとなれば成人男性並みの能力になるはずなので、女子高生の有咲さんにしては高いでしょう。が、鍛え上げた冒険者の男に囲まれて抵抗できるほどのものではありませんね。
それに属性がなし。せっかく魔力が高くても、有効活用が難しい。
そしてスキル、カルキュレイター。有効活用が難しいスキルです。
まあ、スキルについては既に私の方で活用法を考えてあります。と言っても、大した方法ではありませんが。
バツが悪そうにステータスプレートを見せる有咲さんを、私は慰めます。
「有咲さん。レベル8でそれだけのステータスがあるのは十分凄いですよ」
「けっ。おっさんは自分がつえぇからそんなこと言えんだろ?」
「はい、まあ強くなって多少調子に乗ってますが。でも、有咲さんも凄いですよ」
「いや、そういうとこは謙遜しろよ」
有咲さんに突っ込まれてしまいました。正直者すぎるのも考えものということですね。
「っていうかおっさん。暴力に訴えることあるんだな」
「はい、まあこの世界に来て強くなれましたので。あ、ステータス見ます?」
「自慢かよ」
「はい、自慢です。可愛い姪っ子にもっと持ち上げてほしいので」
「キモイんだよおっさん。やめろ」
「はい、すいません有咲さん」
そんな話をしながら、私と有咲さんは並んで帰ります。
「でも、暴力に訴えるというのは少し違いますよ。あくまでも、私は悪い人にだけ調子をこいていくつもりですから」
「あー、調子こいてるのは否定しねーんだな?」
「それはもちろん。コンビニ店員の長年の夢ですからね」
「コンビニ店員関係あんのか? ねーよな?」
「いえいえ、ありますとも。彼ら邪悪な神の眷属に深い恨みを持っているのはコンビニ店員なら誰でも同じですからね」
「は? 意味分からん」
ちなみに、邪悪な神の眷属とは比喩表現です。お客様が神様だとしたら、マナーの悪い客は邪悪な神。そしてマナーの悪い人間はその同類ですから邪悪な神の眷属というわけです。私は普段から、マナーの悪い客は心の中で邪神と呼んでいました。当然、日夜神を討たんと願い続けていましたね。
その関係で、マナーの悪い人や調子に乗って迷惑なことをしている人を見ると、邪神討伐をしたい気持ちに駆られるのです。こればっかりは、コンビニバイトをしていた以上仕方ありません。
「ともかく、有咲さんに何かあればいつでも駆けつけて守りますから。そこは安心して下さい」
「お、おう。わりーなおっさん」
有咲さんはそう言って、家に入る直前のところで一人立ち止まります。
「優しいし、強いし。顔さえ雄一お兄ちゃんのままなら完璧なのにな」
「ん? 何か言いましたか?」
有咲さんが小声で何かを呟きます。大通りの喧騒や扉を開く音に重なったのもあって、よく聞こえませんでした。
「なんでもねーよ、おっさん!」
そう言って、有咲さんは私の背中を突き飛ばしてきます。その勢いで、私は家の中へと押し込まれます。
ふむ。軽い暴力に訴えるほど私が嫌われているとは。もっと有咲さんには優しくしてあげないといけませんね。
嫌われた分だけ優しくしていれば、いつかそのうち仲直りもできるでしょう。
いつもお読み頂き有難うございます。
日間ランキングで上位に入ったお陰か、たくさんの感想を頂いているようです。
有難うございます。
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申し訳ありません。
ただ、感想そのものには全て目を通しております。
至らぬ点、指摘された部分におきましても、改善できる部分は改善していきたいと思っています。
どうかこれからも、当作品を宜しくお願いいたします。