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04 おむかえ




 しばらく付与魔法を使い続け、だいぶ魔力を消費しました。すでに日は暮れ、外も暗いです。魔石は四分の一ほどを付与し、照明魔石に変えました。


 この時間になっても、有咲さんが帰ってこないのは妙ですね。食事にゆっくり時間をかけていたとしても遅すぎます。

 街の治安は悪くありませんが、良くもありません。有咲さん自身もあまりマナーの良い人ではありません。何か、トラブルに巻き込まれていてもおかしくはないでしょう。


 ひとまず、お迎えに向かいましょうか。

 恐らく近場の飲食店のどこかにいる有咲さんを探し、私は家を出ます。




 家を出てすこし歩くと、すぐに有咲さんは見つかりました。

 というのも、通りのど真ん中で揉めているようです。


「へへ、いい加減に諦めなねーちゃん。てめえみてーな女に冒険者は無理なんだよ」

「だから、もうそれは大丈夫なんだっつってんだろ!」

「だったらてめー、あの薬おじのカキタレんなったのは認めるのかよ?」

「それも違うつってんだろ! アタシはちゃんと働くんだよ!」

「けっ、だから俺らがもっと良い働き口紹介してやるつってんだろ! 素直になりゃあいいもんを、つけあがりやがって!」


 男に囲まれて、有咲さんは色々と難癖をつけられているようです。

 しかもどうやら、男たちは一度冒険者ギルドで追い払った奴らのようですね。まさか食事をした帰りに彼らと遭遇するとは。運がありません。


 しかしいくら運がないとは言え、運命だけでなく私まで有咲さんを見放す必要は無いでしょう。しっかりと助けに入ります。


「どうしたんですか、有咲さん?」

「あ、おっさん! こいつら追っ払ってくれよ!」


 私を見つけた瞬間、有咲さんは困ったような顔をしてこちらを頼ってきます。可愛い姪っ子に頼られるというのは、気分が良いですね。

 私はつい、調子にのって有咲さんの前まで歩み寄ります。そして男たちから有咲さんを守るような位置に立ちます。


「てめぇ、薬おじ! いいかげんにしろよ!」


 男たちの一人がキレます。はて、怒られるようなことをしたのでしょうか。身に覚えがありません。


「テメェの女だと思って見逃してやったら、違うっつうじゃねぇかよ! 調子こきやがって!」

「先に唾つけたのは俺らだろうが、しゃしゃり出てんじゃねえぞコラ!」

「ギタギタにしてやろうか、おおん?」


 どうやら、男たちは有咲さんが私の恋人か何かだと思っていたようですね。そして偶然出くわして、有咲さんと会話して誤解が解けた。そこで、恋人でもないなら有咲さんに手を出せると思ったのでしょう。

 短絡的な考え方です。呆れてため息が出てしまいます。


「あのですね。有咲さんは私の姪っ子です。訳あって今日から保護することになりました。ですから、皆さんのような輩に預けるわけにはいかないんですよ」

「あぁん? 俺らの何が不安だっつうんだコラ?」

「女性に軽々しく娼婦になることを薦めるようなところですよ。可愛い姪っ子を傷物にされてはたまりませんからね」

「うっせぇよ! 親でもねぇテメエに何の関係があんだコラ!」


 だから姪っ子と叔父という関係があると言っているのですが。まあ、頭が悪いと話の内容が理解できないのも仕方ありません。可哀そうに。

 ですが哀れみのあまり見逃すというわけにも行きません。彼らは今後も有咲さんに寄ってくるでしょう。悪い虫は早めに潰すに限ります。


「関係ないというなら、いくらでも好きにすればいいでしょう。無関係な男が割り込んできたんですから、実力行使なり何なり、好きにすればよいのでは?」

「ああん?」

「何だこら薬おじ! 調子こいてんじゃねぇぞコラ!」

「調子も何も、体格の割に脳みそが小さいようですね。はっきりと見下しているんですが。ご理解頂けませんか?」

「おう、言うじゃねえかテメエ!」

「草むしってデカイ面してんじゃねえぞボケ!」


 男たちは興奮します。そして内一人が、ついに堪忍袋の緒が切れたのでしょう。拳を振り上げ、私に襲いかかってきます。


「おっさんッ!」


 後ろから、有咲さんの心配するような声が上がります。でも、大丈夫です。安心してくださいね有咲さん。


 元から、こいつらでは私に傷一つ付けられませんから。


 ごすっ、という鈍い音が響きます。男の拳が、私の顔に直撃した音です。


「あぁ?」


 そして、男は疑問の声を上げます。

 当然でしょう。全力の拳を顔面に叩き込んだはずなのに、私はまだ立っています。普通なら、気持ちよく吹き飛んで倒れるところです。


 しかし、残念ですね。今の私が相手では、そうはいかないのですよ。


「どうしましたか? 蝿でも止まっていたなら、追い払ってくれたことを感謝しますが」

「くっ、なんなんだよテメェ!」

「何なんだも何も、私は草むしりをしてデカイ面をするだけのおっさんですよ。草むしりもできなさそうな、ひ弱な皆さんよりはマシな男です」

「うるせえ! ボコすぞコラ!」


 そう言って、男の前蹴りも私に直撃します。が、少しの衝撃で身体が揺れただけで、私には大したダメージにもなっていません。


「手加減がお上手ですね。今まで熱心に曲芸でも学んでいらしたのですか?」

「クソが、ぶっ殺す!」


 そうしてキレた男が、何度も私を殴打し、蹴り込んで来ます。

 しかし、ただの一発も私へまともなダメージを与えることはありません。さすがに異様だと気づいたのか、殴ってくる男の表情に焦りと恐怖が浮かびます。他の男たちも、私の様子に驚き、硬直しています。


 やがて、男は息を荒くして、疲れのあまり手を休めます。


「はぁ、はぁ」

「お疲れ様です。せっかくですし、お手本を見せてあげましょう」


 言って、私は男の鳩尾に拳を打ち込みます。

 ドゴォッ! という音を立てて、私の拳は男の胴にめり込みます。


「コハァッ!」


 男は息を漏らして、そのまま痛みの余り蹲り、その場に倒れます。その姿を見て、他の男たちも慌て始めます。


「さて。うちの有咲さんに手出しする方は他にもいらっしゃいますか?」


 私はそう言って、順に男たちの顔を見ます。誰もが首を横に振って否定します。


「では、そろそろお帰りになられては? 良い宿が埋まってしまいますよ」


 失せろ、と私が暗に言うと、いくら馬鹿でもそれぐらいは理解できたのでしょう。倒れた男も拾って、男たちは退散していきます。

 私はその姿を眺めながら、満足げに頷きます。


 しかしなかなか。こうして時には調子をこいてみるのも爽快感があって小気味よいですね。悪党相手には実力行使も辞さない方向で行きましょう。

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