04 永い時の果てに
九十八年。
童鬼事変から、それだけの時が経った。
結局、俺と有咲の間にだけは、子供が出来ることは無かった。
しかし互いの思いを違えぬよう、十年、二十年と時を過ごしても繰り返し言葉を交わし、分かち合った。
せめて子供たちに愛情を注ごう、とだけ望んだ。
彼ら彼女らが成人し、独り立ちしても。
孫の顔を見せに来るようになっても。
俺と有咲は変わらず、子供たちを等しく愛した。
召喚者は、人よりも魔物に近い。
だから老けない。
しかし、寿命はまちまちだった。
四十年ほど前に、マリアが亡くなった。
その次は、なんと沙織だった。
そうして俺と有咲は、ヴラドガリア以外の妻たち全員を見送った。
二人揃って、百年近い人生は長かった。
しかし、そんな俺達にも終わりは近付いていた。
互いの命が尽きようとしているのを、互いに感じ取っていた。
すっかり衰えた身体はベッドで寝たきりとなって。
有咲はそんな俺の傍ら、安楽椅子に座ってずっと手を握っていてくれた。
「有咲」
「なあに」
呼びかけると、応えてくれる。
「ありがとう」
せめて言葉にしておこうと、声を振り絞る。
「本当に、ようやってくれたなぁ」
すると、有咲が手をキュッと強く握って答える。
「もう、何度目よ、それ」
最後のやり取りとなった。
痛みも苦しみもなく、どちらが先とも分からぬほど、俺達は静かに息を引き取ったのだ。
次の投稿で完結となります。
19時投稿となりますので、よろしくお願いします。





