01 大団円
童鬼による侵食事件、後に『童鬼事変』と名付けられた大災害から十年後。
「まてまて~っ!」
我が家の庭に集まって遊ぶ、大森林自治区のゴブリンの子供たちと、ピンク色の肌をしたゴブリンの少年。
そう、童鬼だった彼である。
俺の中でうんたらと言っていたわりに、ひと月もしないうちに「暇!」と言って具現化し、以来こうして普通に生活している。
当時、有咲なんかは「普通に出てくんじゃん」と呆れてツッコミを入れたものである。
ともかく、この十年ですっかり少年は顔なじみとして定着し、大森林自治区のゴブリン達に可愛がられている。
本人は、ガキ共の面倒を見てやっている、と言っていたが。
「雄一」
背後から声が掛かる。振り向かなくとも、誰か分かる。
「有咲」
俺が返事をすると、有咲は隣に座る。
「いい感じだね」
「ああ」
抽象的ながら、言わんとすることへなんとなく共感し、同意する。
とても穏やかな気持ちで、庭で遊ぶゴブリン達の様子を眺めた。
童鬼事変の終結直後。
転移の魔道具でマルクリーヌと八色が緊急避難したことを知り、有咲は生きた心地がしなかったと語った。
何も語らず、俺の胸をぽかぽかと殴り、そして泣いた。
複雑な感情に言葉で返す術を思い付かず、俺には抱き締めることしか出来なかった。
何はともあれ、童鬼による侵食は終わった。
多くの犠牲や損失はあったものの、世界が崩壊するような事態は免れたのだ。
吉報はすぐさま各地へと届けられた。ルーンガルド王国もその内の一つ。
この功績を持ってして、ついに乙木商事はルーンガルド王国から独立。
魔王領とルーンガルド王国の間、つまり大森林自治区で中立国としての立場を持って、両国の関係改善に向けて活動を開始した。
その甲斐もあり、この十年で二国間の争いはほぼ無くなった。
とは言え、人々の感情までは変えられない。
魔王領の人々を恨む人間も、人間を恨む魔王領の人々も後を絶たない。
価値観の違いからくる衝突、争い事も無くなりはしない。
これまで完全に分断されていた二つの勢力が、互いを理解し、諍い無く付き合うことが出来るようになるまで、まだまだ時間はかかるだろう。
それこそ百年、二百年。あるいはもっと掛かるかもしれない。
すぐに改善出来るものではないからこそ、じっくりと、焦らずに取り組んで行こうと思う。
大切な人たちが、穏やかに暮らしていける明日の為に。





