16 神へ
気が付くと、俺は真っ白な空間に寝転がっていた。
ふと気になり、自身のステータスを確認する。
「ステータス、オープン」
【名前】ERROR
【レベル】ERROR
【筋力】ERROR
【魔力】ERROR
【体力】ERROR
【速力】ERROR
【属性】ERROR
【スキル】ERROR
名前まで、全てがERROR表記となっていた。
なるほど、これが神に至った証なのだろう。と、理解できた。
「よくやったわね、乙木雄一」
不意に、どこからともなく声が響く。
そして姿を表したのは、見覚えのある顔。
俺達が異世界召喚される時に出会った女神。かつての勇者アヴリル。
「って、気張った感じで出てきても仕方ないわよね~」
と言って、途端に表情を崩し、砕けた雰囲気を醸し出すアヴリル。
「で、聞きたいこととか色々あるでしょ? じゃんじゃん聞いちゃっていいわよ?」
「では遠慮なく」
話が早すぎて若干の困惑も覚えるが、まずは聞かねばならないことがある。
「私は、神になったのでしょうか?」
「たぶんそう、部分的にそう」
妙に濃い顔かつ難しい顔をしながら、いつの間にかターバンを巻いてアヴリルは答える。
「ああ、落胆するのは早いわよ?」
表情に出ていたのか、アヴリルは慌ててターバンを投げ捨ててフォローに入る。
「乙木さんの魂と、その子の魂の相性が良かったのよ」
アヴリルが言って指差す方を見ると、そこには見覚えのあるキャンディゴブリンの少年が横たわり眠っていた。
「貴方達は二人で一つ、融合したような状態になって、神になるに相応しい力を手に入れたわ。でも、それは乙木さん自身が神に至る条件をクリアしたってわけじゃない」
「では、私には神にならずに済む方法があると?」
訊くと、アヴリルは首を横に降る。
「その子を切り離せば元に戻れるわ。もちろん、地上も元通りだし、裏切られたその子がどんな思いをするか考えると、ね?」
「そう、ですか」
再び落胆が頭を擡げる。
「あーもう、めんどいオッサンねッ! 聞きたいことがあるんだったらもっとはっきり聞けばいいでしょ! 勝手に想像して落ち込まないでよ!」
言われてみればその通り。
「では、私は元の場所へ帰れるのでしょうか?」
「イエス! イエス! イエス! イエス!」
髪と一体化しているようにも見える奇妙な帽子をいつの間にか被って答えるアヴリル。
「私は有咲と、大切な人たちと、元通りの暮らしが出来ると? その方法がある?」
「イエス!」
アヴリルは帽子を脱ぎ捨てると、一転して真面目な様子で語り始める。
「そもそも、どうして召喚者が神に至る必要があるんだと思う? それはね、神さまも部下が欲しいのよ。自分の仕事を手伝ってくれる部下が」
アヴリルは神の側の都合を明かす。
「自分が召喚に関わった召喚者が神に至ると、自動的に部下になる。だから神さまは召喚を手伝って、自分の部下を増やそうとするわけ」
「それが、今回の件と何の関係が?」
俺が問うと、アヴリルはわかりやすく纏めてくれる。
「つまり、乙木さんが神さまにならなくっちゃいけない、どうしても今すぐならなきゃいけないみたいな理由は無いってこと!」
そして、微笑みながら告げる。
「だったら、私の部下なんだから。いつから働いてもらうかなんて、私が決めて当然でしょ?」
茶目っ気たっぷりなウインクをしながらアヴリルは言った。
「乙木さんは呪怨の神になりかけていたその子を無力化した。結果的に、神が生まれるために作られたこの世界を救って、神にとって利益ある成果を残した。だったら、相応の報酬として融通は利かせられる」
言うと、俺に向かってビシリと指を指すアヴリル。
「いい? これから乙木さんが天寿を全うするまでは待ってあげる。でも、その後は手下としてこき使ってあげるから、覚悟しときなさいよね!」
つまり、アヴリルさんの裁量で、俺の為に融通を利かせてくれる。そのお陰で、俺は元の世界に戻り、大切な人たちとまた会えるというのだ。
「アヴリルさん、ありがとうございます」
自然と、感謝の言葉が口から出る。
すると、アヴリルはふざけた様子で返してくる。
「ダメダメ、これから乙木さんは部下になるんだから。私のことはちゃんと、『アヴリル先輩♪』って呼んでくれないと」
「は、はぁ」
「いいわよね、先輩って言葉の響き! アニメと言えば先輩! 先輩と言えばアニメ! くぅ~! 憧れだったのよねぇ~!」
バシバシ、と何度も俺の背中を叩くアヴリル先輩。
「もしかして、照れ隠しをしてます?」
「な、何を急にっ!」
「私がアヴリル先輩と同じような後悔をしないようにと、気遣ってくれたんですよね?」
「あーうるさいうるさい! 聞こえなーい!」
耳を抑えて聞こえていないフリをするアヴリル先輩。
「余計なこと言ってないで、さっさと元の世界に帰りなさい! はいど~んっ!」
「うわっ!」
次の瞬間、アヴリル先輩に突き飛ばされる。
どこかへと落ちていく感覚に見舞われ、意識が遠くなっていく。
最後に見たのは、ニコニコの笑顔でこちらに手を振るアヴリル先輩の姿だった。





