02 クズ魔石
私は訪問すると、まずはギルドの受付に向かいます。
「こんにちは。乙木さん、今回はどのようなご用件ですか?」
受付嬢さんが笑顔で応対してくれます。ちなみに、シャーリーさんではありません。シャーリーさんは基本的に午後休なので、今はギルドにいませんからね。
「実は、魔石をお譲り頂きたいと思っておりまして」
「魔石、ですか? ギルドでは魔石の買い取りはしていますが、販売となると専門の商店でお買い上げいただくことになりますが」
受付嬢さんが首をかしげます。まあ、それも当然でしょう。
魔石というのは、魔物の身体に埋まっている石のようなものです。魔力を溜め込み、魔物が生物として活動するためのエネルギーとして使う為の臓器です。人間で言うと、脂肪を蓄積するようなものでしょう。
多くの場合、魔物を倒すとその体内には魔石が残っています。これには魔物が蓄積した魔力が蓄えられています。この魔力に価値がある為、ギルドでの買取対象素材にもなっています。
魔石の持つ魔力は、日本で言うと電池のような用途で使われます。一般のご家庭だけでなく、冒険者も利用します。主に魔道具の動力源として、一般的に使用されているのです。
ただ、冒険者が納品した魔石がそのまま使われているわけではありません。形や大きさがまちまち。しかもほとんどの魔石はサイズが小さい為、使いづらいのです。
なのでギルドは引き取った魔石の魔力を、使いやすく、大きい魔石に移します。そして魔力で一杯になった魔石を、市場に流します。
魔力補充に使われた小さい魔石は、廃棄品となります。
「実は、私が欲しいのはクズ魔石の方なのです」
そう。今言ったとおり、私が欲しいのはクズ魔石。廃棄となった小さい魔石の方なのです。
「はぁ、クズ魔石ですか。そんなものを、どんな目的で?」
「魔法陣を描く塗料に使おうかな、と思っていたりします」
「魔法陣ですか」
受付嬢さんは渋い顔をします。これも、当然の反応ですね。
魔石は魔力を蓄積する為、魔法陣の塗料に向いています。ですが、実際に使おうと思えば専門の処理を施した後の粉末でなければいけません。そうでない場合、性能が低すぎて使わないのとあまり変わりないのです。
しかも、魔法陣の塗料を必要とする人はそう多くありません。一方で、魔石は大量に納品されます。その関係で、魔力の無い魔石はほとんどが使われず、ギルドが独自に処分しているのです。
「まあ、廃棄処分となるものなので問題はありませんが」
「ありがとうございます。あるだけ全部の魔石を頂ければ嬉しいのですが」
「はい。では、少々お待ち下さい」
受付嬢さんは、渋い顔をしながらも認めてくれました。これで商売の元となるものがタダで仕入れられることになります。
ちなみに、どのように使うかは既に決めています。が、これから実験もしなければいけないので確定ではありません。
とはいえ、上手く行けば商品をタダで仕入れたも同然なのです。とても美味しい展開です。
「乙木さん、これぐらいあればいいでしょうか?」
受付嬢さんが戻ってきました。カウンターの向こうから、こちらに出てきます。手押しの台車に、膨れ上がった大袋を三つも乗せています。中身が全部魔石と考えると、かなりの量です。
「はい、これだけあれば助かります。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらもクズ魔石の処分の手間が省けて助かりました」
私と受付嬢さんで、お互いに感謝しあいます。そしてもう用件も終わりです。私は魔石の入った袋の中身を、私の収納袋の中へと移していきます。
大量の魔石が入った収納袋を、私は持ち上げます。少しだけ重くなりましたが、大量の魔石が入っているとは思えません。こうして荷物を軽量化できるところも、アイテム収納袋の便利な部分ですね。
「では、ありがとうございました」
最後に一礼して、私は冒険者ギルドから離れます。
さて、次は家に戻って商品を作りましょうか。





