10 不意打ち
暗黒領域までの道中は、童鬼の一体も出現しなかった。
おそらく、戦力のすべてを地中海の外へと向かわせていた為だろう。敵が、地中海周辺の領域を闇で侵食することを優先した結果とも言える。
ともかく、俺達は暗黒領域の目前まで辿り付いた。
「さて。ここから先には俺だけで進むんだが」
俺達の到着を察知したのか。暗黒領域から、新たな童鬼が次々と生み出され始める。
「旦那様。この童鬼は私達で相手します」
「道を切り開こう。その隙に突入してくれ!」
「ああ、分かった!」
作戦とも呼べないような作戦が決まる。
暗黒領域から溢れる童鬼は、急造の為か数も少なければ質も悪い。
だが、間断なく溢れてくるため、無策に突入しようとすれば袋叩きに遭うだろう。
敵を一掃、とまでは行かなくとも、突入可能な余裕を作ってから先に進みたい。
「ふッ!」
次の瞬間、八色が攻撃に出る。スキル『超加速』で射出されるのは金属の棒。乙木商事の技術で作った合金製の、手のひらに隠せる程度の大きさで、これを八色は投擲と同時に加速。無数の金属棒が、次々と童鬼に突き刺さる。
「はっ!」
さらに八色は飛び上がり、宙返りをしながら四方八方に金属の棒を投げる。飛来する鉄の棒は、見た目こそ地味ながら、物理現象としての限界を超えて射出される超エネルギーを持っており、その破壊力には並ならぬものがあるのだ。
その証拠に、無数に湧き出ていた童鬼が一瞬にして大きく数を減らす。
続けて、マルクリーヌがインテリジェンス・ソードを下段に構え、攻撃に入る。
「雄一殿から授かった、魔を断つ剣戟、受けてみよッ!」
刀身から、バチバチと雷属性の魔力が溢れ出す。
マルクリーヌ本人の持つ属性を増幅し、蓄え、一挙に放出する。単純にして強力な仕組みの一撃。魔法よりも剣術での立会を好むマルクリーヌのために、特別に拵えた専用の機能。
「いくぞッ! エクスカリバァァアアッ!」
インテリジェンス・ソードが音声認識により、機能を開放。高まった雷の魔力が、マルクリーヌの横薙ぎの一閃と同時に開放され、無数の童鬼を纏めて葬り去る。
「まだだッ! 裁きの鉄槌ッ! トールハンマァァアア!」
流れるような動きで、唐竹の構えから剣を振り下ろすマルクリーヌ。続けて放たれた雷の魔力が、上空から押しつぶすように多数の童鬼を巻き込み、捻り潰す。
かなりの数の童鬼がマルクリーヌ、そして八色の攻撃で消滅する。
だが、それでも次々と童鬼が溢れる為、キリがない。
「ちっ。まだまだゆくぞッ!」
溢れ出る童鬼に対して、マルクリーヌが次の攻撃に移ろうとした時。
不意に、足元の影が僅かに揺らぐ。
嫌な予感がする。
「マルクリーヌッ! 足元だッ!」
「なにっ」
俺の呼び掛けに反応し、マルクリーヌも違和感を抱いたのだろう。咄嗟にその場を飛び退く。
が、一手遅かった。
足元の影から、童鬼が姿を表す。その大きさは通常の童鬼と比べても小さく、細身。おそらく、隠密に特化した童鬼であったのだろう。今の今まで、その存在に気付けなかったのだから。
その隠密童鬼が、影から飛び出ると同時にマルクリーヌを襲う。インテリジェンス・ソードで反撃するが、懐に入りこまれてしまい対処しきれない。
隠密童鬼の素手の一撃が直撃し、トランセンドアーマーの上からダメージが入る。
「グッ!」
「このっ!」
即座に八色が金属の棒を投げて援護する。隠密童鬼は即座に撃破され、消滅する。
が、時すでに遅し。
「マルクリーヌッ!」
俺は即座に駆けつけ、マルクリーヌの負傷を確認する。腹部のアーマーが壊れ、肌が僅かに露出し、童鬼特有の黒色に侵食されているのが見て取れた。





