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09 進む意思




 勇者パーティの三人に続き、ブラドガリアも前に出る。


「妾もたまには、良いところを見せんとな」


 次の瞬間、ブラドガリアは魔力を開放する。

 彼女の長所は、その膨大な魔力のステータス。これは即ち、それだけ大規模な魔法を発動可能であることを意味する。


 勇者や賢者ですら及ばないほどの魔力から、人知を超えた魔法が発動する。

 その魔法の性質を言葉にするなら、そう。『召喚魔法』。


「来たれ、彗星! ヘルズスフィア!」


 ブラドガリアの深淵属性の魔力が、ここでは無い『何処か』と繋がる。

 深淵という言葉に相応しい、深い闇が広がる空間から、闇色の球体が無数に呼び出される。


 それは、深淵の魔力で構成された彗星の破片。これらが次々と飛来し、童鬼の群れへと突っ込んでいく。

 深淵の彗星は童鬼を轢いて消滅させると、そのまま元の場所である『何処か』へと還っていく。


 だが、ブラドガリアの攻撃はこれで終わりではない。


「さらに! ディストーションスタァライト!」


 遠い『何処か』に繋がったまま、続けて輝く星が召喚される。

 本来、闇の性質を持つ深淵属性の魔力が小さな点に圧縮され、星のように光り輝いているのだ。


 そんな星が、雨あられと童鬼達へと降り注ぎ、次々と滅してゆく。


 これこそが、ブラドガリアの魔法の真骨頂。一度繋いだ『何処か』から、連続で深淵属性の魔力の塊を召喚し、攻撃するのだ。


「さらに、ケイオスマスター!」


 続いて、渦巻く深淵属性の魔力を召喚。

 台風の雲や銀河のような形で渦巻く魔力の中心では、ディストーションスタァライトを超える密度で魔力が圧縮されており、引力を発生させ、無数の童鬼を引き寄せ巻き込む。


 当然、巻き込まれた童鬼は蒸発するように一瞬で消滅してゆく。


「さ~らにッ! ネレイデスオブザワールドッ!」


 これまでの連続した攻撃の、締めとなる魔法が発動する。


 辺り一帯に浸透した深淵の魔力が、まるで水が湧き出るように溢れ出る。

 無数の童鬼はこの魔力の波に飲まれ、身動きが取れなくなる。


 そして魔力の波は、なんと巻き込んだ童鬼ごと『何処か』へと還ってゆく。


 ヴラドガリアが繋げた『何処か』には、元々存在していたもの以外が存在しない。いや、存在できない。

 故に、送り込まれた童鬼は、存在を許されず消滅し、深淵の魔力へと還元されてゆく。


 こうして一連の魔法により、ヴラドガリアは勇者パーティの三人と比べても遥かに多い童鬼を葬り去った。


「行って下さい、乙木さん」

「金浜君、ですがっ!」

「信じてくれませんか?」


 金浜君の言葉に、俺はつい言葉に詰まってしまう。


「今、一番優先するべきは俺達の安全じゃない。違いますか?」

「それによ、俺達が負けるってワケでもねえしな!」

「ふっ、同感だ。乙木さん、逆に考えて下さい。貴方が最速でこの事件を解決してくれるなら、なんの問題も無いんだと」


 三人の信頼が、重く伸し掛かる。


「こ奴らの言う通りじゃ。今は押し問答をする時間も惜しい。雄一殿、心配だと言うのなら尚更、ここは任せて先を急ぐのじゃ」

「っ、分かった」


 ヴラドガリアに促され、俺は頷く。


「行こう、マルクリーヌ! 八色!」

「ああ、道中の護衛は任せてくれ!」

「皆さん、ご武運を!」


 そうして、俺達はこの場を四人に任せ、三人だけで海底の暗黒領域に向かう。

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