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08 焦る童鬼




「雄一殿ッ! 敵が続々と近づいてきておるぞッ!」


 警戒を促す言葉を、ヴラドガリアが発する。

 先ほどの金浜君の海を割る一撃に、童鬼全体が反応したのだろう。


「童鬼に追いつかれるより先に、目標到達を目指します! 行きましょう!」


 俺が言うと、しかし全員は同意しなかった。


「ここは、俺達に任せて先に行って下さい」

「金浜君ッ?」


 言って、切り開かれた道に背を向ける金浜君。


「ま、足止め役は必要だわな?」

「ふん。敵も総力をここに差し向けようとするはずだ。乙木殿を除けば僕らが残るのが最も合理的だな」


 さらには東堂君に、松里家君までこの場に残ると言い出す。


「であれば、妾も残ろうかの」


 ブラドガリアまで。


「ちょっと、皆さん! さすがに無茶が過ぎます! 物量が違うんですよ!」

「ふふっ」


 金浜君は笑みを零して、俺の言葉に言い返す。


「物量だけなら、好都合ですよ。ここなら敵は、一列に並んで俺達の前に立ちはだかってくれる」

「っ!」


 確かに、各地に点在する童鬼を各個撃破して回るよりは、遥かに合理的に戦える。

 だが、相手は有象無象ではない。ステータスSSSSS相当の強敵なのだ。


 いくら彼らが強いと言っても、息をするような難易度で撃破出来るような相手ではない。

 そう遠くない内にスタミナ切れ、魔力切れで倒れる可能性が高い。


 そうこうしているうちに、数え切れないほどの無数の童鬼が迫ってくる様子が目視できるようになってしまう。


「金浜君ッ!」

「まあ、まずは見ていて下さいよ」


 言って、金浜君は剣を構え、高く飛び上がる。


「俺が、俺自身がッ! 一振りの剣になるッ!」


 膨大な光の魔力を身に纏う。そして、光は超巨大な剣を象る。


「うぉぉおおおおおッ!」


 光の巨大剣を纏ったまま、金浜君は突きの姿勢をとって童鬼の群れへと突撃する。

 群れと衝突しただけでは止まらず、そのまま次々と童鬼を消滅させながら突撃が続く。


 そして、最後に光の巨大剣が爆発を起こし、さらに広範囲の童鬼を殲滅。

 一度の攻撃で数百の童鬼を屠った金浜君。


 さらに、これに続けて東堂君も童鬼の群れに向かって駆け出した。


「次は俺の番だなぁッ!」


 言って、東堂君は剣を抜いた。


 彼の戦う姿はあまり見たことが無いが、その性質、剣聖というスキルの特徴は聞いている。


 勇者があらゆる才能を伸ばすスキルだとすれば、剣聖は剣での戦闘特化。それも、技術が重点的に強化されるスキル。

 つまり金浜君の放ったような、大規模な攻撃を放つのには向いていないはずなのだが。


「東堂流超必殺剣術奥義ッ! 名付けて『葬爛』ッ!」


 東堂君は言って、まるで野球バットをスイングするような軌道で剣を振るう。

 すると、剣から溢れた闘気が斬撃となって飛翔し、水平に広範囲を刈り取るように童鬼を襲う。


 飛ぶ斬撃は直撃してもすぐには童鬼を両断せず、無数に巻き込んで飛び続ける。

 ある程度の距離を進んだところで天に向かって伸びるように浮き上がり、はるか上空で纏めた童鬼を両断。同時に爆発し、全てが塵となって消えた。


「ふっ、僕も久々に全力を出させてもらう」


 続いて、松里家君が前に出る。


「具現せよ、炎の結晶ッ!」


 言って松里家君は炎属性の魔力を眼の前に集め始める。


 この魔法は、松里家君が独自の研究の末に導いた奥義。自身の魔力を呼び水に、それぞれの属性を司る『何か』を呼び出す魔法。

 元々は、ダンジョンについての研究論文を読み漁るうちに、人工的にダンジョンを再現する、という技術に興味が向いたそうだ。


 そうして研究を進めるうち、人工ダンジョンは実現できなかったが、代わりにあるものを発見した。

 それがこの魔法。通称『精霊結晶』である。


 ダンジョンを魔物とするなら、そこには何らかの意思が存在するはず。

 この意思を再現するための研究の過程で生み出した属性魔力の結晶が、ダンジョンとはまた異なる『何か』の意思を宿した。


 それは精霊魔法と呼ばれる、エルフ等の一部の種族の間で伝わる魔法に良く似た力を発揮した。

 だから、精霊結晶。


 効果は単純。

 呼び出した『何か』に属性魔力の結晶を捧げ、対価として人ならざる『何か』にしか成し得ない強大な魔法を発動してもらうのだ。


「灼熱と業火の意思よ、開放せよ! 『フレイリア』ッ!」


 呼び掛け、最後に松里家君が『何か』の名前を呼ぶ。


 すると『何か』ことフレイリアは、松里家君の意思を汲み取り、言葉を超越した思惟のやり取りによって、望まれた通りの魔法を緻密に発動する。


 迫りくる童鬼達の前に、炎で出来た巨人のようなものが具現。

 次の瞬間、巨人は腕を振るうようにして、灼熱の炎を撒き散らした。


 その熱量によって、不思議なことに大地が傷つくことは無く、童鬼だけが溶けるように蒸発、消滅する。


「続けていくぞッ! 『シルフィリア』、『アーシリア』、『ヴォルティリア』、『ブリザリア』!」


 松里家君は次々と精霊結晶を生成。自身が持つ五つの属性、すべての結晶が宙に浮かぶ。


 すると戦場には、フレイリアに続き四体の巨人が顕現。風、大地、雷、冷気の属性を持つ巨人。


「極限の嵐を、荘厳なる煌めきを、浄化の雷を、静かなる粛清を!」


 四人の巨人が、松里家君の言葉に反応。風の刃による嵐、蛇のようにうねる大地、柱のように立ち上る雷、吹き荒ぶ冷気が無数の童鬼を飲み込み、消滅させてゆく。


 その殲滅力だけで言えば、間違いなく金浜君、東堂君を圧倒的に超えていた。

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