06 究極奥義
ジョアンは血を払うような動作で軽く剣を振ってから、次の標的を見定めるように周囲を見渡す。これに怯えたのか、通常の童鬼はたじろぎ、わずかに後退する。
だが、童鬼側もただ見ているだけではない。
一連の動きを見て、ジョアンが只者ではないと把握した武将童鬼がなんと、二体動時にジョアンへと迫る。
しかも、連携、等という生ぬるい攻撃ではない。二体の武将童鬼が融合しながら、一体の怪物として姿を変質しながら襲ってきたのだ。
「ッ、紅炎界ッ!」
ジョアンは慌てて、防御の為の技を発動。剣を地面に突き刺すと、灼熱の赤い光が球状にジョアンを包み込み、バリアのようになって攻撃から身を守る壁となる。
しかも、この光はただ防御をするだけではなく、受けた攻撃に対して熱波の反撃を繰り出す。その為、融合した武将童鬼は何度も拳でバリアを叩くが、返ってくる熱波に参ったのか攻撃を中断する。
だが、それで諦めるような相手ではなかった。融合した武将童鬼は、自らの体を糧に、闇でジョアンの防御ごと包み込み、捨て身で支配を試みたのだ。
もはや形すら残らない、真っ黒なゲル状になって自分を包み込もうとする武将童鬼に、ジョアンは最大限の反撃を試みる。
「プロミネンス、リヴァイヴァァァァァアアアッッ!」
自分を包み守る灼熱の光を極限まで高め、限界を超える。
そうすることで、ただの灼熱が聖火、つまり回復や浄化の属性すら帯びる域へと達する。
これまでの連撃で消耗した自分の魔力すら、この技によって回復、いや、むしろ上限を超えて増幅されてゆく。
その圧倒的な魔力の波動が、ジョアンを包み込もうとしていた武将童鬼を吹き飛ばし、ダメージまで与える。
ここで、ジョアンは最強の一撃、究極奥義を放つ。
「俺は、この一撃で未来を紡ぐッ!」
増幅された灼熱の光がインテリジェンス・ソードに注ぎ込まれる。それでも溢れる光がジョアンを包み、さらに周囲一体を光に包む。
「斬魔ッ! 紅炎剣ッ!」
強烈な光に怯む武将童鬼へと、ジョアンは距離を詰めて連続の剣戟を浴びせる。
その一撃一撃が、全て必殺の威力を伴っており、溢れ出る灼熱の光はもはや剣という規模を超え、周辺一帯を切り刻む。
融合したといえども、武将童鬼にこれを耐える術は無かった。
「これで、終わりだァァァアアアアアアアッ!」
最後の一撃を、飛び上がるような勢いの良い斬り上げで締めるジョアン。
切り刻まれた武将童鬼はもちろん、余波に巻き込まれた無数の童鬼も次々と消滅していく。
「ふぅ、なんとかなったかな」
奥義を放って、さすがに疲れた様子のジョアン。
この隙を狙ってか、数体の童鬼がジョアンに向かって駆け寄ろうと動き出す。
だが、これをティアナとティオが許すわけがなかった。
「蒼風迅」
「翠氷迅」
それぞれ得意属性の氷と風の魔力を纏う衝撃波を剣から放ち、童鬼を吹き飛ばし牽制する。
「ジョアン、休んで」
「ここからは、任せて」
奥義を放って疲れている様子のジョアンに代わり、ティアナとティオが前に出る。
「うん、ちょっと任せる」
言って、ジョアンは一息つく為に後方へと下がった。
一方、童鬼達はこのままだと勝ち目が薄いと悟ったのか、先ほどの武将童鬼が二体で行っていた融合を、残る三体の武将童鬼と、生き残りの通常童鬼十数体で試みていた。
めちゃくちゃに混ざりあった童鬼は、もはや鬼と呼べる形はしておらず、巨大な肉団子から無数の手足が乱雑に生えたような形となっていた。
「まとまってくれるなら、好都合」
「でかいの何度も、お見舞いしてあげる」
言って、ティアナとティオは互いのインテリジェンス・ソードを交差するように構える。
元から双子故に高いレベルの連携が可能な二人に、それぞれのインテリジェンス・ソードが加わることで、実質四人分の連携が可能となる。
つまりは、四人掛かりで放つような大規模攻撃魔法でも、今の二人は発動可能だということだ。
肉塊童鬼の融合が完全に終わったのを見計らってか、二人は声を重ねて技を発動させる。
『アイシクルメテオ』
肉塊童鬼の上空に無数の氷塊が生成され、これらが勢いよく落下し標的を襲う。
質量、速度、さらに魔力の乗った破壊力が行動を許さずにダメージを与え続ける。
だが、当然これで終わりではない。
ジョアンと同様、連続で技を放つほどに、インテリジェンス・ソードはその効果を増していく。
『デュアルサイクロン』
続いて風の刃が竜巻や嵐のように渦巻いて荒れ狂い、肉塊童鬼を切り刻む。
『アイスエイジ』
嵐が終われば、今度は絶対零度の冷気と氷の刃を含む吹雪が吹き荒れる。
『プリズミックダスト』
さらに続くは、氷と風の複合魔法。目に見えないほど細かい氷の刃が、大風と共に吹き付ける。光は氷の粒によって屈折し、七色の虹を生み出す。
しかし、虹の正体は無数の微細な氷魔法の刃だ。何万、何億という数の攻撃が肉塊童鬼の表面を削り取るようにダメージを与える。まるで、虹に食い殺されるかのように。
『フォトンセイバー』
今度も氷と風の複合魔法。断熱圧縮により強く発光する風の大剣と、その光を受けて輝く氷の大剣が、次々と上空から降り注ぐ。
これは容易く肉塊童鬼を貫き、地面に縫い付け、大ダメージを与える。
『アブソリュート・エクスプロージョン』
氷属性の魔力を伴う冷気を、風属性の魔力を伴う風が極限まで圧縮する。限界を迎えたところで二属性の魔力を伴う冷たい爆発が発生する。
肉塊童鬼は体中をズタズタに破壊されながら、その断面が冷気によって凍結する。融合時の要領で再結合して傷を埋めることすら出来なくなる。
『ハウリングブリザード』
ここで、これまでの攻撃で蓄積してきた凍結、氷結部位を基点とした魔法が発動。周囲の地面に咲いた氷の花はもちろん、肉塊童鬼の傷口を塞ぐ氷まで、甲高い音を立てて破裂する。
音に反応するように、次々と連鎖的に破裂する氷から、音に乗って冷気も拡散。再度周囲が凍結し、これがまた破裂。
こうして無限にも思える氷結と破裂の連鎖が、肉塊童鬼を細かく引き千切っていく。
『アンチマター・エクセキューション』
連鎖し、増えてゆく氷が、次の魔法により反転する。
この魔法の発動により、破裂した氷によって生み出される新たな氷が、反物質的な性質を持つ魔法によって構成し直されてゆく。
反物質の氷と、反物質の圧縮大気による破裂が、次々と対消滅を起こす。
一瞬のうちに、肉塊童鬼はその体の三割以上を失った。
また、一連の魔法による連携で、ティアナとティオもジョアン同様、限界を超えて魔力が高まり、その力が大きく増幅した状態にあった。
つまりは、二人が協力して放つ究極奥義の発動準備が完了したということでもある。
『ワールド・オブ・ゼロ』
大宇宙に漂う、絶対零度の暗黒物質と光り輝く星雲。魔法的な冷気と大気が極限を超え、概念的な域に達し、その性質すら変化させた姿に変わる。
暗黒物質と星雲が、肉塊童鬼を上下から挟むように迫り、衝突する。
直後、強烈な光とエネルギーが発生。宇宙開闢を思わせるような強い力が、肉塊童鬼を構成する魔力すら巻き込んで、光と熱に変わってゆく。
全ての光が収まった後に残ったのは、漠然と創造的に変換されたエネルギーそのもの。球状に集まった青と緑に光る魔力が、柔らかく開放され、周辺一帯を包み込む。
すると、これまでの戦闘で破壊された地形や、魔力を消耗したはずのティアナとティオ、そして後方のジョアンまでもが、癒やされていく。
大地は戦いなど無かったかのように再生し、三人は戦いが始まる前と遜色ないレベルまで魔力、体力を回復していた。





