04 魔王軍の上澄み
宮廷魔術師団が戦いを始めたのに遅れて、別の場所で魔王軍の上位層と武将童鬼の戦いが始まった。
魔王軍側はレオニスさん、サティーラさん、イチロースズキさんの三人。対する武将童鬼も、なんと三体。
「どうしましょうか、レオニス殿。サティーラ殿」
「フッ、各個撃破しかあるまい!」
イチロースズキさんの問いに、レオニスさんが行動で答える。真っ先に駆け出し、武将童鬼の一体に強烈な掌底を浴びせ、吹き飛ばす。
「この、脳筋めがッ! 直接触れてはならんとあれほど言われたというのに!」
「問題無しッ!」
サティーラさんが苦言を呈するが、レオニスさんは全くの無傷。童鬼の侵食は無い。
「武を極めるほど、肉体の感覚は鋭くなり、やがて大気が油のように纏わりつき、鉛のように重くなる実感が得られる。そして重鈍な大気を良く掴み、技を振るうことを知る」
「何を言っているのだコイツは?」
「つまり、吾輩の拳打には大気の鎧が伴う、ということだ!」
そういうことらしい。
原理は意味不明なものの、とにかくレオニスさんの拳は直接の打撃にはならない。であれば、童鬼と格闘戦を繰り広げることも可能だろう。
「では、もう一体はこの私が」
言って、イチロースズキさんが魔法の風で武将童鬼を一体絡め取り、距離を離す。
これで、サティーラさんも含めて一対一の構図が三つ出来上がる。
「乙木殿の知識によれば、風属性の魔法とは大気の『動き』と『粘性』を操るのだとか。であれば『粘性』を極限まで高めることで」
イチロースズキさんは、風を集めて剣のような形のものを二本生み出し、右手と左手で一本ずつ握った。
「こんなことも出来るわけです」
直後、追い風の魔法で瞬間的に加速し、武将童鬼に襲いかかるイチロースズキさん。
風の剣の二刀流で、素早い連撃を浴びせる。
これを嫌がり、武将童鬼はイチロースズキさんへ向けて反撃の拳を繰り出した。
だが、瞬時に風が集まり、武将童鬼の拳を包んで飲み込み、受け止めてしまう。イチロースズキさんの言う通り、粘性が極めて高い風によって拳が絡め取られ、動けなくなったのだ。
「いかがです? これが『粘性』を高めた風の力です」
イチロースズキさんは、難なく武将童鬼を圧倒する。
「フッ、出遅れたようだが、私とて負けてはいないぞッ!」
レオニスさんとイチロースズキさんに一歩遅れて、サティーラさんも戦いを始める。
「右手に闇を、左手に光をッ!」
ただ遅れたわけではなく、集中して高めた魔力を両手に集めていた様子。
「相反する二つの魔力を引き合わせ、螺旋にして撃ち出すッ!」
続いて、サティーラさんは両手を正面に突き出して握り合わせ、二つの魔力を同時に、渦状に打ち出す。
光と闇の渦が武将童鬼の飲み込み、その動きを抑え込む。
「貫けェ! リヴァリィ・ファントムッ!」
次の瞬間、サティーラさんの纏う魔力が、そのままサティーラさんそっくりの形となり、武将童鬼に向けて打ち出される。
そして魔力の幻影が突き出した両手の拳が、武将童鬼の胸に突き刺さる。
「デヤァァアアアッ!」
サティーラさんが何かを引きずり出すような動きをすると、連動して魔力の幻影も武将童鬼の胸から闇を引き摺り出した。
「ふんッ!」
そして硬いものを握りつぶすようなジェスチャーを取るサティーラさん。魔力の幻影も連動し、武将童鬼の胸から引き摺り出した闇を握って粉砕する。
直後、幻影を形作る魔力が炸裂。武将童鬼はダメージを受けつつ、吹き飛ばされる。
「まだ死なぬとは。だが、ならば何度でも削り取ってやるぞッ!」
体力的にも、魔力的にも余裕がある様子のサティーラさんは宣言するのであった。
とまあ、空撮ドローンを見る限りでは、魔王軍の上澄みである三人の戦いは危なげなく繰り広げられていた。
「さすがの三人です。一対一で、武将童鬼を相手に出来るとは」
動きが悪いとはいえ、数値上はオールSSSSSの相手にも引けをとらない三人は、以前よりもさらに実力を高めているのだろう。
これならば、安心して武将童鬼の対処を任せられる。





