03 宮廷魔術師団
最初に登場した武将童鬼に対応したのは、シュリ君率いる宮廷魔術師団。
砲撃と爆撃の雨を抜けて来た三体の武将童鬼を撃破しにかかる。
「よーっし、みんな、撃て撃てぇ~っ!」
シュリ君の掛け声で、宮廷魔術師団は用意していた魔法を発動する。
それは、シュリ君が俺と共に付与魔法の効率化を研究する中で発見した強力なデバフ魔法。
言ってしまえば、付与対象に不利な効果を発揮するスキルのようなものを付与することで、行動を阻害する魔法だ。
最新鋭の技術で付与魔法に掛かるコストは大きく軽減され、さらに必要な魔力を外部から調達可能になった為、実現可能になった。
通常のデバフとは異なり、スキルや魔法による抵抗が効かず、純粋に付与を弾くほどの強力な魔力を能動的に発することでしか回避出来ない。
そんな魔法を受けて、三体の武将童鬼は途端に動きを悪くする。
「ふむふむ、付与魔法でちゃんと動きが悪くなるってことは、やっぱり攻撃魔法っていうよりも魔法生物、実体の無いホムンクルスのような存在なのかな?」
シュリ君はそのような考察をしながら、素早く空中に魔法陣を描く。最新型の魔導3Dペンで、書き味や線の細かさまで調整可能な逸品。シュリ君専用に開発した装備である。
「だったら、こういうのに弱いはずだよねぇ~?」
ニヤリ、と笑ってシュリ君は即席の魔法を発動する。
すると途端に、武将童鬼の身体が糸が解れるように崩れ、消滅する。
「うんうん。やっぱり存在し続ける為に必要な魔力を分離すればいいみたいだね」
推測が当たっていたことが嬉しかったのか、シュリ君は何度も頷く。
「ほら! これで武将童鬼は倒せるって分かったんだから、次もしっかり足止め頼むよ~!」
シュリ君が言って、指した方向からは、武将童鬼が二体近寄ってくる。
これを足止めする為、宮廷魔術師団が再び付与魔法によるデバフを発動する。
「まあ、倒せるって言ってもこっちの消費はかなり大きいし、じっくり魔力を解きほぐさなきゃいけないから足止めも必要だしで、現実的な攻略法じゃないけどねぇ」
と、残念がるように言いながら、再び魔法を発動。先程と同様に、武将童鬼を消滅させるシュリ君であった。
俺は遠く離れた場所から、空撮ドローンによる映像を見ながら戦況を確認する。
その一つが、今も見ていたシュリ君率いる宮廷魔術師団による武将童鬼の撃破シーンだった。
「す、すごい。こんなに簡単に童鬼を倒せるなんて」
俺と一緒に映像を見ていた金浜君が声を漏らす。
ここに居るのは、地中海への突入部隊のみ。俺と、金浜君率いる勇者パーティの三人。マルクリーヌに、八色。そしてヴラドガリアの合計七人。
地中海までの道が開けたらすぐに出られるよう、戦況を確認しつつ待機している。
「無限に湧き出る童鬼を相手に、外付けの魔力タンクまで使って足止めしてようやく撃退です。結果だけ見れば簡単そうに見えますが、実際は違いますよ」
「そう、ですか」
童鬼が簡単に倒せるなら、という希望を見た金浜君が俯く。
残念だが、シュリ君のやり方ではただ倒せるだけで、童鬼全体を撃退可能とは言えない。
もっと言えば、あの魔法陣はシュリ君がその場で、アドリブで調整して書き上げているものだ。
一般化して、誰でもどこでも使えるような魔法へと改良するには膨大な時間と試行錯誤が必要だ。たとえカルキュレイターを使ってもすぐには改良出来ないだろう。
「ですが、撃退可能という事実は追い風です。順調に行けば、私たちが地中海へと突入する為の道は必ず開けます」
俺が言うと、気を取り直したように金浜君が頷く。
「分かりました。その時が来たら、俺たちで必ずこの戦いを終わらせましょう」
「ええ。頼りにしていますよ、金浜君」
そうやって言葉を交わすと、再び俺達はドローンが送ってくる映像に目を向けるのであった。





