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01 作戦開始




 乙木商事の戦闘部門を総動員し、地中海へと向かう。

 動員人数は、なんと五万人。戦闘車両、自走砲、戦車等を含めた地上兵器が一万台超。航空戦力が千五百機。他にも戦略級兵器が百機。

 これが、乙木商事の用意出来る戦力の全てだ。


 人員としては、俺と有咲はもちろんのこと。戦闘員としてマルクリーヌさん、ティアナとティオ、ジョアン、八色を連れてきている。涼野さん達のような、召喚者が組んだ冒険者パーティは、貴族側の召喚者に死者が出ていることから、実力不足として連れてきていない。


 ただ、負傷者の治療等で後方支援には何人かの召喚者に来てもらっている。『完全回復』のスキルを持つ鈴原歩美さんが良い例だ。

 また、後方支援には沙織にも来てもらっている。可能な限り、死傷者は減らしたい。


 さらに、魔王軍からの援軍もある。総勢千人の、精鋭中の精鋭。人数は少ないが、装備を整えれば乙木商事の上澄みに匹敵する戦力となる。


 そして四天王のレオニスさんに、イチロースズキさん、サティーラさん、そして他ならぬ魔王ヴラドガリアも当然参加している。

 数による制圧という面では頼ることは出来ないが、ピンポイントで戦略上重要な場所を抑える為には十二分に働いてくれるだろう。


 そして、なんとルーンガルド王国からも増援があった。まず、シュリ君率いる宮廷魔術師団。人数は三十名と少ないが、非常に高度な魔法を操る集団な為、作戦上で頼る場面は多々あるだろう。


 次に金浜君率いる、勇者パーティ。沙織が抜けた為、現在は剣聖の東堂陽太君と、松里家君を含めて三人だけだが、恐らく今回の作戦に参加する面子の中では最強に近い戦力だろう。

 彼らは鍛錬を欠かしておらず、今では一人一人が魔王であるヴラドガリアに匹敵する戦力となっている。


 これで今回の作戦に関わる戦力は全てだ。なお、ルーンガルド王国の人数が少ないのは、半端な戦力では童鬼に取り込まれ、被害を拡大するだけとなる為、断ったという理由がある。


 これだけの戦力で何をするのかと言えば、簡単に言えば飽和攻撃だ。


 現在、童鬼は地中海周辺およそ五十キロメートルほどを闇に飲み込み、侵食している。当然、この領域は無数の童鬼が闊歩している状態となっている。


 俺が地中海の底へと到達するには、まずこの五十キロもの厚みを持つ領域を突破しなければならない。

 その為に、全戦力を集中し、童鬼の防衛能力を超える攻撃を加えることで、俺を含む童鬼討伐チームを地中海へと送り込める穴を開けるのだ。


 これが、今回の童鬼討伐作戦の第一フェーズである。


 この作戦を取る理由として、童鬼はステータス相応の攻撃能力を発揮しない傾向にある、という観測事実がある。

 不思議なことに、童鬼はステータスSSSSS相当の素早さやパワーで周辺を蹂躙するようなことは無いのだ。


 ゆっくりと徒歩で移動し、闇の領域の外に出ると、少しずつ侵食を始める。侵食が終われば、またゆっくりと歩き出す。

 未だに童鬼に侵食された領域が五十キロメートル程度で済んでいるのも、このお陰だと言えるだろう。


 また、童鬼の攻撃行動も非常に緩い。見た目よろしく、一般的なゴブリン相当の行動しか起こさず、速度についても同様。つまり、動きだけで言えば普通のゴブリンなのだ。

 ただ、その一撃の破壊力は桁違いであり、乙木商事の装甲車両も一撃で粉砕する。また、呪怨の力で対象を闇に取り込む特性もあり、全ての攻撃が実質即死技でもある。


 これらの情報から、童鬼の耐久力、対処能力を超える遠距離からの飽和攻撃が有効だという判断に至ったのだ。

 当然、その耐久力がステータスSSSSSに相当するものである為、必要な火力も高くなる。

 乙木商事の総戦力で飽和攻撃をするのは、そういった理由で当然の判断だった。




 そうして、ついに戦力が童鬼の前へと集結する。

 全体指揮は、有咲に任せる。カルキュレイターの力で、的確な指示を出してくれるはずだ。


「いよいよだな」

「うん」


 任せた、という気持ちを込めて、有咲の背中をポンと叩く。


「俺は、突入部隊と合流する。こっちは任せた」

「任せといて。アタシが、童鬼なんて全部ぶっ潰してあげるから!」


 力こぶを作るような仕草を見せる有咲には、確かに言うだけの頼もしさが感じられた。

 俺は後方に設営された指揮所を離れ、地中海突入部隊の待機する前線へと向かう。


「作戦、開始ッ!」


 背中の方から、戦いの火蓋を切る有咲の声が聞こえた。

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