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03 決断の時




 俺でなければ、童鬼に対抗できない。

 これは、童鬼が呪怨の力とやらを扱っていると聞いた時点で、予測出来たことだった。


 呪詛の力は、未だに原理が解明できていない。乙木商事の技術力を持ってしても、正体不明の力なのだ。

 魔法とも異なる、全く未知の力。これを扱えているのは、未だに俺ただ一人。そして、これから他の誰かが、あるいは何らかの機械的な装備で扱えるようになる見通しも立っていない。


 かつてメティドバンが呪怨の力を扱った方法でさえ、成功は奇跡に近い偶然であり、未だに再現が出来ていない。


 そして、童鬼の力は理不尽に人や物を飲み込む。この効果に抵抗しうる力が、現状で俺の呪詛の力の他に無い以上、童鬼の本体や、発生源を叩きに行けるのも俺だけと言える。


 もっと言えば、実力的に童鬼と戦えるであろう金浜君でも、呪詛や呪怨の力への抵抗力は無いはず。

 一度取り込まれてしまえば終わり、という状況で頼るわけにもいかない。


 合理的に考えれば、俺が出る以外の選択肢は無いのだ。


『オトギンが対抗出来るとしても、対抗手段が分からないなら戦いには向かわせられないよね? オトギンにやってもらわないといけないことは判明してるの?』


 シュリ君が、メティドバンに疑問を投げかける。

 さながら俺を守ろうとするかのようだったが、これにメティドバンはすぐさま答えた。


「神が世界に関与する、というのは並大抵のことではないはずだ。でなければ、この世界で生まれた神々が、世界へと関与した記録が数々残っているはずであるからな。つまり、童鬼は相当な無理をしているか、あるいは神へ至ることに抵抗しており、未だ完全な神へとは至っていないと考えられる」


 確かに、童鬼が起こすような現象が過去幾度も観測されていれば、相応の記録が残っているはずだ。

 それこそ、勇者アブリルだって現世に未練があった。干渉が容易であったなら、勇者アブリルが女神となった後の干渉の記録があってもおかしくはない。


 つまり、神は本来、この世界に干渉出来ない、あるいは極めて限定的な干渉しか出来ない。童鬼のように、大規模な攻撃は不可能なはずなのだ。


「よって、ここが唯一の童鬼の弱点であると考えられる。童鬼に何らかの負荷を掛けることで、この世界に関与する余裕を奪う。強制的に神の世界へ追い出すか、あるいは無理をして弱っているはずの童鬼に攻撃を加えるか。何にせよ、付け入る隙はあるはずなのだ」

『で、それがオトギンに戦ってもらう理由ってこと? 正直、願望が入り混じってて検討するに値しないと思うよ』


 シュリ君が切り捨てるが、これにもメティドバンは反論する。


「だが、他の手段では童鬼への対処そのものが不可能であろう。無限に童鬼を生み出す、地中海の底に存在する闇の領域。アレに我々が持つ既存のあらゆる手段では、干渉不可能であることが分かっている。乙木殿の呪詛の力が、何らかの作用を起こしてくれなければ、我々は童鬼に蹂躙される日を待つだけとなるぞ」


 メティドバンの主張も尤もなものだった。

 俺が出ることに意味があるという確証は無い。だが、俺以外では意味が無いと分かっているのだ。


 事実とは言え、空気が重くなる。

 この状況を打破するように、俺は口を開く。


「分かりました。私が出ましょう」


 全員の注目が、俺に集まる。


「ここで私が出なければ、多くの人が犠牲になる。大切な仲間や、家族まで危険に曝されるんです。童鬼と誰かが戦うべきである以上、私がやらなければならないことでしょう」


 そう、たとえこの戦いで俺が、神に至ることになったとしても。

 この世界が童鬼に蹂躙され、やがて家族まで失うような羽目になるよりは、遥かにマシなのだから。


 言外に俺が固めた決意を全員が悟ったのか、誰も反論はしない。


「すまぬ。乙木殿」


 提案した張本人である、メティドバンの謝罪がその場に物悲しく響いた。

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