03 スキルエラー
『よしっ! じゃあ次は、スキル欄のERROR表記について話し合おっか!』
元気な声でシュリ君が話を切り替えてくれる。
が、それでも空気が重くなることは避けられない。
何しろ、他ならぬ俺がそのERROR表記を達成してしまっているのだから。
空気を変える為にも、まずは俺から話し始める。
「一つ確実なのは、召喚者の末裔、つまり現在の魔物たちからスキルが奪えないという事実です。ここから、召喚者の第一世代同士でなければ奪い合いが発生しないと予測出来ます」
『二世代、三世代と第一世代に近い世代については分からないけど、現状で言えば概ねそうなるだろうね』
『魔物を殺すだけではスキルエラーを達成する可能性はほぼ無い、ということでしょうね』
俺の意見に、シュリ君と松里家君が補足する。
『以上のことから、ひとまずスキルエラーをこれから達成しそうな召喚者は居ない、と言いたいところだけど。残念ながらそうもいかないんだよねぇ』
シュリ君は困ったような調子で語る。
『オトギンと、内藤隆。この二人は、どちらも召喚者を殺す前からスキルエラーを達成してた。つまり、スキルエラー達成に必要な直接の条件はスキルを奪うことや、召喚者同士で殺し合うことじゃない。つまり、どの召喚者も達成する可能性が残されてるってことになるよね?』
「ええ、そのとおりです」
シュリ君の推測に頷き、そこに俺の推測を付け加える。
「召喚者同士で殺し合うことで魂を吸収する。この現象が、間接的にスキルエラーの条件を達成しているのは勇者アヴリルの手記からほぼ間違いないはずです。ステータスエラーの推測に従うなら、中でもスキルを奪う、という現象が間接的な条件達成の鍵になっているのも間違いない」
俺が言うと、有咲が話を纏めて考察を始める。
「ってことは、雄一と内藤の共通点を洗い出せば条件が分かるかもしんないね」
「有咲は、もう予想がついてるんじゃないか?」
「うん。二人の共通点は、複数のスキルを所持してること。それも、普通の複数所持じゃない。本来共存するはずが無いスキルを、二人とも沢山所持してたはずなんだ」
有咲の推測に、全員が納得する。
「内藤は自身のスキル『完全支配』についてこう語っていました。支配した人間が獲得したスキルを回収出来ると。獣人やエルフの種族特有のスキルや、単純に体質に由来するスキルまで回収していたと仮定すると、彼は本来同時に習得しえないスキルを保持していたことになりますね」
『そしてオトギンは、女神様に魔物とか物品とか植物とか、色んなものが持ってるスキルを無理やり突っ込まれた。もちろん、人間が習得してるはずが無いスキルをいくつも持っている』
『なるほど、確かにそれは二人だけの共通点ですね』
一同の同意を得られた有咲は、さらに続きを話す。
「それに、勇者アブリルの境遇も辻褄が合うんだよね。魔王の持つスキルはアブリルでも習得出来るスキルばかりだった。だからERRORに至らなかった。けど、仲間の召喚者の中の誰かが、アヴリルには習得できないスキルを持っていた。だからそいつを殺した瞬間、神に至ってしまった。って、シナリオが推測出来る」
有咲の言葉に頷き、話を纏める。
「真偽はこの際関係ありません。重要なのは、共存しえないスキルを同時に習得することでスキルエラーに至っている可能性が高いという部分です。これこそが、スキルエラーを起こさない為に、最も警戒して回避しなければならないポイントになるはずです」
『うーん、そうなると難しくなるよ? 例えば召喚者のチートスキルが成長して、既存のスキルと矛盾するようなことになったらスキルエラーを起こす可能性があるよね? これ以上の成長は望ましくない、っていうのは、事情を説明せずに他の召喚者に分かってもらえるかな?』
シュリ君の懸念は尤もだ。ただ、懸念点の大部分はある行動により高い確率で回避出来る。
「可能性の話をするなら、独自にスキルを成長させ、内藤のように神へ至る条件を達成する可能性は低いでしょう。勇者アヴリルですら、最後までスキルはエラーとならなかった。ステータスエラーを起こすほど戦い、経験を積み、魔王のスキルを奪ってもなお、達成しなかった。つまり、生半可な状況ではスキルエラーを達成することは出来ない」
『なるほど、具体的な達成条件の難易度は分からなくても、勇者アヴリルの例を参考にすれば、通常の手段では到底達成できない、っていう予想だね?』
シュリ君の理解が早い言葉に頷く。
「私と内藤の例が特殊過ぎます。三カ国の国民全員から回収したスキルを持つ者と、非生物が持つスキルまで習得した者。こんな条件をこれから達成する召喚者は、監視さえ続けていれば出てくることを防げるでしょう」
『つまり召喚者の動向を観察していれば、スキルエラーに至るような行動は事前に察知出来る。その時点で対処すれば、未然に防ぐことも可能だ、って言いたいんだね?』
「ええ、まさにそういうことです」
俺の言葉に、シュリ君は納得したようだ。
『オッケー、分かったよ! じゃあ話を纏めると、召喚者の動向は監視をする。ステータスエラーの条件を達成しないよう、召喚者同士の殺し合いを忌避するような話を流布する。この二つの対策を取ることで、召喚者が神に至ることをほぼ回避できる、ってことだね?』
「はい。ですので、シュリ君にも召喚者の動向を監視してほしいのですが」
『もちろん! ここまで来たら乗りかかった船だしね!』
こうして無事、召喚者が神に至る条件、さらにそれを回避する手段についてもおおよそがまとまり、会議は終了した。
しかし、一つだけ会議で避けた話があった。
それは、俺が神に至ることを回避するにはどうするべきかという話である。





