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09 アヴリルの正体




 俺は、木下さんが纏めてくれた翻訳を全て読み終え、息を深く吐いた。

 その内容、結末は想像以上に酷いものだった。


 特に、手記の最後。この戦いが最後の戦いになればいいのに、という言葉。これは紛れもない本心であっただろう。が、望む形で叶えられたわけでは無さそうだ。


 恐らく勇者アヴリルは、ウェインズヴェールの人々を殺そうとしていた勇者と戦い、殺した。この時手に入れたスキルによって、とうとうスキル欄がERROR表記となった。神に至る最後の条件を満たしたのだろう。


 そうして勇者アヴリルは、この世界から跡形なく消えた。信頼できる仲間と、突如離れ離れになる形で最後の戦いを終えたのだ。


 やり場の無い感情を持て余し、俺は何となく、テーブルの上に置いてあった手記を手に取る。

 パラパラとページをめくり、中身を確認する。そして続きの書かれなかった、手記の終わりから先、残された空白のページまで捲っていく。


「ん?」


 そして、気付いた。

 空白のページの中に、何かが挟み込まれていたのだ。


「これは、紙?」


 それなりの大きさの紙を、丁寧に折りたたんであるように見える。

 この紙を取り出して、広げて見せる。


 そこに書かれていたのは、金髪の女性。恐らく、手記の中にもあったアヴリルの似顔絵だろう。


 初めて見たはずなのに、何故か既視感を覚える俺。


 記憶の奥底を探り、既視感の理由を追う。


「あっ」


 俺が持つスキル、『完全記録』の中にある原初の記録。

 スキルを魂にぶち込まれた、その瞬間の記憶。


 女神様に召喚され、謎の空間で廃棄スキルを押し込まれ、意識が薄れゆく瞬間。

 それまで誰も、俺自身も認識していなかったはずの女神様の姿がチラリと見えた。


 その時の姿、顔立ちはまさに、手記から出てきた似顔絵と瓜二つ。


 つまり俺達を召喚した女神様こそ、この手記を残した勇者アヴリル本人ということになる。


 思わぬ関連性に驚き、しかし同時に助かった。

 これで勇者アヴリルが、条件を満たして神へと至ったことは確定したのだ。


 つまりステータスのERROR表記等、アヴリルが辿った道筋を辿れば神へと至る可能性も極めて高いということになる。


 逆説的に言えば、ステータスをSSSSSに到達させず、勇者同士で殺し合わず、チートスキルを複数入手するような事態を避けさえすれば、神にはならなくて済むとも言える。


 また、今となっては些細な問題だが、経験を積んだ勇者が異形のモンスターに進化してしまう可能性も極めて低いと言える。

 神に至った勇者アヴリルでさえ、神に至るまで人の姿であったのだ。

 可能性がゼロになったとは言わないが、極めて低い確率に過ぎないだろう。


 ただ一つだけ、懸念点があるとすれば。


 俺は依然、ステータスがSSSSSに到達するだけで神に至り、この世界から旅立ち、家族と離れ離れになる可能性は残ったまま。

 むしろ、実際にステータスオールSSSSSとなった時、そうなる可能性は上がったとも言える。


 分かっていたこととは言え、この情報の扱い方には、どうにも苦慮することになりそうだ。

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