04 勇者アヴリル
数日後。木下さんが翻訳を終えたとのことで、会議室に二人で集まる。まずは内密に、俺が一人で翻訳の内容を確認することにしたのだ。
「翻訳、ありがとうございました木下さん」
「これぐらい、なんてこと無いですよ。こちら、お返しします」
言って、木下さんは勇者の手記をこちらに返却する。
受け取った手記を一度机の上に置き、本題に入る。
「さて。翻訳のほうですが」
「はい。こちらに纏めてあります」
言って、木下さんは複数の紙を纏めてこちらに渡す。
「内容は、ある勇者が召喚されてから最後の戦いに赴くまでの手記でした。その勇者の名前は、『アヴリル・マッカートニー』。イングランド系アメリカ人の、当時十四才の少女だったそうです」
随分と若い年齢で召喚されたようだ。
まだ年若い子供が親元から引き離されるというのは、やはり酷い話だ。
「手記には、当時の過酷な状況下で勇者召喚をされ、戦わざるをえなかった子供たちの様子が詳細に綴られていました」
「しっかりと、拝見させて頂きます」
覚悟を決め、翻訳が綴られた紙に目を通す。
異世界 一日目
これからどんなことになるか分からないから、とりあえず記録を残しておくわ。
私の名前はアヴリル・マッカートニー。日本のアニメ、漫画文化が大好きな十四歳!
日本旅行に来ていたんだけど、シューガクリョコーってのに来ていた日本の高校生に巻き込まれて異世界に召喚されちゃったの!
私たちはスキルっていう力を手に入れたんだけど、それを使って魔王軍ってのと戦わなきゃいけないみたい。
私たちを召喚した国は魔王軍と戦争をしていて、負けそうだから勇者を召喚したんだって。
戦わないと、私たちも魔王軍から攻撃される。だから、戦わないなんて選択肢はない。
でも、急に戦えって言われても、みんな嫌みたい。
私は、アニメみたいな展開で少し興奮しちゃったわ。
魔王軍と戦って、勝って、帰ってパパとママに自慢するのよ!
異世界 二日目
他の勇者と話をした。
召喚されたのは、シューガクリョコー中の高校生。班で分かれて自由行動中だったみたい。五人一組の班が二つで十人。女子の班と男子の班だったから、召喚されたのも男子と女子が五人ずつ。
女子の班があんまり仲良くなくて、二人が男子の班と合流しようとしたんだって。勝手に行っちゃった二人を残りの三人が追いかけた。男子の班は、その二人と仲のいい男子は一人だけ。他の四人は女子と合流したくなくて、口喧嘩になったみたい。
で、このタイミングで勇者召喚されたって事情みたい。
ジャパニーズラブコメ! 実在したんだ! って思って近づいた私は巻き込まれただけかも?
でも巻き込まれ召喚は主人公になるってお約束だし、たぶん私が真の勇者よ!
で、話をしたら勇者の中の四人と仲良くなった。
一人は、男子の中で一番ひねくれてたリヒト。でもオタクだから、ナ◯トの話で盛り上がったのよ!
スキルは鑑定がどうとかで、戦うのは無理だって言ってた。確かに、私より弱そうだし戦わない方がいいかもね。
次はイラストが趣味のミユキ。スキルも絵に書いた魔法を何でも実現しちゃうイラストレーションってスキルで、とっても強い!
しかもドラ◯ンボールのイラストを描いてもらったわ!
そして、魔力を使っていろんなものを召喚できる、アイテム召喚のカオリ。マンガだって召喚できるみたい!
でも、戦うのは得意そうじゃない。後方支援に徹するって言っていたわ。
ちなみに、この文章を書いている手帳もカオリが召喚した手帳なの。紙を紐で束ねた、ダサい手帳だけど、こういう技術レベルが低いものなら簡単に召喚できるみたい。
一日目に何か書くものが無いか訊いてこの手帳を貰ったんだけど、わざわざ私のために召喚してくれたカオリはいい人ね!
最後に、カラテ経験者のチサト。ジャパニーズブドーの使い手で、スキルも『拳帝』っていうめっちゃ強いスキル。
多分、勇者の中でも特に強いんだと思うわ。だから、私はチサトからカラテを教わることにしたの!
やっぱり、真の勇者たるもの、強くならなくちゃね!





