01 勇者の足跡
龍の里での用事を終え、大森林自治区に帰還した翌日。
俺は龍神から聞いて分かったことを仲間たちに伝えるため、会議を開いた。
メンバーは俺と有咲、そして勇者の細胞について王都で研究してくれていたシュリ君と松里家君の四人。
うち、シュリ君と松里家君は王都からの通信での参加になる。
『やっほーオトギンっ! 調子はどう?』
「ええ、なかなか良い情報を仕入れることができましたよ」
俺は頷きながら言って、龍の里で判明した事実を共有する。
「まず、私達の予想通りです。勇者は魔物と同じ存在で、進化をする可能性がある。それを龍神が肯定してくれました」
「ふむふむ。具体的には?」
「そもそも、勇者も魔物も起源は同じ。異世界から、神が召喚した存在なのだそうです」
この世界が新たな神を育て生み出すための世界であること。新たな神になりうる可能性を持つものとして召喚されたのが、今の魔物の起源であること。
そして、人々がそれぞれの時代で起こった問題を解決するために、神に祈って呼び出されたのが勇者であり、勇者もまた新たな神になりうる存在であること。
そして、神に至る過程を不完全に辿ったものが魔物の進化であるということ。
これらの事実を順番に説明し、最後にまとめる。
「つまり、神は祈りに応えつつ、この世界で新たな神を生み育てる目的を達成する為、勇者召喚という手段を人に与えた。こうして呼び出された我々は、魔物と同じく進化し、神に至る可能性を持っている、というわけです」
俺の言葉に、シュリ君は額を抑えるような仕草を見せる。
『ちょっと、予想以上に具体的なことが分かったみたいで困惑してるよ』
「困惑ついでに、もう一つ聞いて下さい」
俺は言って、最も重要な情報を告げる。
「神へと至る条件は幾つかあります。全てを満たすと神へ至るのですが、龍神はうち一つだけを満たしていました」
『それは?』
「ステータス、オールSSSSS。これを満たすことで、ステータスボードの表記がERRORとなるそうです。これが神に至る条件の一つのはずだと、龍神は言っていました」
その言葉に、一同が言葉に詰まり、しんとする。
が、松里家君が沈黙を破った。
『僕の方でも色々、過去の資料を調べました。勇者のことですから、当然、前回の勇者の資料も詳細に調べました。その中には、勇者がステータスオールSSSSSに到達した、という文言が何度も登場しました』
松里家君の言葉に、一同が注目する。
『一方で、勇者が神に至ったという記録は一切ありません。また、ステータスオールSSSSS到達以後の記録もほとんど残っていません。ですので、こう予測出来ます。もし神に至るのが事実だとすれば、過去の勇者は神に至り、この世界から神の世界に旅立った。条件は複数あり、ステータスオールSSSSSのみではないから、その時点では記録に残っている。この後、勇者は残る条件を達成し、神へと至った為、記録が残らなかった』
息を飲み、松里家君は言う。
『つまり、龍神に与えられた情報は、過去の記録と何ら矛盾していない。一定の信憑性がある話だということです』
それ以上のことを、松里家君は言わない。
けれど、何が言いたいのかは分かっている。
ステータスオールSSSSSに到達した者だけが見る、ERRORの表記。
これを俺は、俺達はよく知っている。
俺のステータス、スキル欄のERROR表記。
恐らく俺は、もう一つの条件を達成してしまっているのだ。
ただ、これは現時点で予測に過ぎないし、俺以外の召喚者には関係のない話でもある。
あえて言及せず、話を進める。
「龍神は言っていました。召喚者についてさらに知りたいのであれば、勇者の足跡を辿れ、と。前回召喚された勇者の一人が、最後まで戦い抜き、神へと至ったのだと」
『となると、今まで以上に前回の勇者についての記録が重要になってくるね』
シュリ君が、俺の話に乗ってくる。
『確かに前回の勇者が神に至ったのなら、その足跡は神へと至る道そのものだったろうからね。調べろっていうのは理にかなってる』
『これまでに調べた資料の他にも、前回の勇者についての記録はあるはずです。さらに探ってみます』
松里家君もさらに調べてくれるようで心強い。
しかし、既に十分調べてある王都の資料に、果たして今以上の重要な情報が残っているのだろうか?
正直言って、手詰まり感がある。
などと考えていると、有咲が口を開く。
「勇者の記録なら、王都よりも重要な情報が残ってるかもしれない場所があるよ」
告げられたのは、予想もしていなかった場所。
「領都ウェインズヴェール。あそこのトーフ蔵は、千年以上前から続いてる上に、言い伝えでは勇者が考案したらしいじゃん? だったら、当時の勇者とのやりとりなんかが記録に残っててもおかしくないんじゃない?」
その言葉に、俺もなるほど、と思わず頷いた。
完結まで、一気に投稿していきます。
毎日7時と17時の二回投稿になります。
よろしくお願いします。





