14 ただいま
乙木商事の輸送車両に乗って、長い道のりを進む。
会話は少なかった。けれどシャーリーとの帰り道は、楽しかった。
自宅に到着すると、真っ先に迎えてくれたのはマリアだった。他の妻たちは仕事や用事があるのか、皆出払っていた。
「お帰りなさい、雄一様」
俺は頷き、マリアに感謝を伝える。
「ただいま、マリア。出迎え、いつもありがとう」
俺の様子が変わったことに驚いたのか、一瞬だけ目を見開いて驚くマリア。
しかし、すぐに笑みを浮かべ、頷いて応える。
「さあ。旅の成果をみんなに報告するよりも、まずは湯に浸かって疲れを癒やして下さいな。浴場の準備は出来ていますよ」
「いつも気が利くな、マリアは」
「当たり前のことをしているだけですよ」
微笑むマリアを軽く抱きしめた後、俺は家に入る。
俺が湯船にゆっくり浸かっていると、忙しい足音が近づいてくる。
「パパ、ボクがお背中を流すよ!」
「パパ、私もお背中を流したいの!」
ティオとティアナが、騒がしく浴場に飛び込んでくる。
「おかえり、ティオ。ティアナ。仕事は終わったのか?」
俺が訊くと、二人は顔を見合わせてから、首を傾げる。
「お仕事は、パパが帰ってくるから急いで終わらせたよ」
「それよりパパ、少し、普段と違う?」
二人に問われ、苦笑いを浮かべる。
疑問に思われるぐらい、俺は家族との距離を図り損ねていたらしい。
「ああ、そうだよ。家族や、他にも親しい人達とは、今までよりも仲良しになりたくなったんだ」
「僕、パパのこと好きだよ?」
「私も。それでも、もっと仲良しになるの?」
俺は湯船から出ると、二人の頭を撫でます。
「そうだぞー。仲良しに、好きに上限は無いからな」
その言葉に、二人は揃って笑顔を浮かべる。
「じゃあ僕も、もっと仲良しになりたい!」
「お背中流したら、もっと仲良しになれる?」
「ああ、なれるさ。ティオとティアナの背中は、俺が洗ってあげよう」
こうして俺たちは、三人で仲良く入浴を済ませるのだった。
その日の夜。自室の縁側で有咲と二人、何となく、夜空を肴に酒を飲む。
大森林自治区のとある部族が作る伝統的な酒で、竹を使って作るらしく、独特の香りがあって非常に美味い。
「雄一。敬語使うの、やめたんだね」
有咲に聞かれ、頷く。
「分かり合うって、難しいんだろうと思ってさ」
些細なすれ違いで不幸になっていた、シャーリーとそのご両親のことを思う。
「だから、言葉遣いで距離を置くなんて、馬鹿らしくなったんだ」
それが全てというわけでもないが、大きな理由の一つでもある。
俺は、俺の大切な人達、家族や友人とはすれ違いたくない。だから誤解を招くような言葉遣いは、辞めるべきだと思った。
「そうだね」
有咲は俺の内心を知ってか知らずか。それだけ言って、夜空を見上げる。
言葉を尽くしたり、時にはそれが邪魔であったり。
人が分かり合うというのは、とても難しいことなのだろう。
それでも、決して不可能などではない。
今、同じ夜空を見上げる有咲のことを思うと、何となく、そんな気がするのだ。
これで十二章は終了です。
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