13 帰り道
龍神との対話を終えた私たちは、龍神洞を後にしました。
里に戻ると、姫巫女は訝しむような視線と共に、どうせ龍神様にお会い出来なかったのだろう、と言って、嫌味をつらつらと並べ立てました。
しかし、シャーリーさんはそれにはっきりと言い返します。
「だったら、何なんですか。貴女に何か関係ありますか?」
言い返されることを想定していなかったのか。姫巫女は何も言い返せず、口を噤みました。
その後は里長の下へと向かい、龍神と対話出来たことを報告しました。
こうして里での用事を終え、帰る時が来ました。
里長の家を出ると、サヴァンさんが待っていました。
「シャーリー。話がしたい」
その言葉に困惑しながらも、シャーリーさんは私の方を一度見てから頷きます。
そのままサヴァンさんに連れられて、シャーリーさんは実家へと一度帰りました。
私はしばらくの間、シャーリーさんの実家の前で用事が終わるのを待ちます。
小一時間ほど経った頃、ついにシャーリーさんは家から姿を見せました。
その顔にはうっすらと涙の跡が残っており、しかし笑顔を浮かべていました。
また、シャーリーさんを見送る為なのか、サヴァンさんとシエラさんが一緒に家から出てきます。
三人は互いに、何かを確認するかのようにじっくりと抱きしめ合います。
そこに言葉はありませんでしたが、シャーリーさんにとっては十分なようでした。
晴れやかな様子で、家族から離れるシャーリーさん。
「お父さん、お母さん! 行ってきます!」
笑顔のシャーリーさんを、二人もまた笑顔を浮かべて見送ります。
三人が、家でどのような会話をしたのかまでは分かりません。
ただ、少なくともこれまでのすれ違いは解消されたのだろう、と安心出来る笑顔でした。
里を出て、二人で乙木商事の輸送車両を残した場所へと向かいます。
その道中、シャーリーさんから提案がありました。
「雄一さん。お互いに、敬語を使うのを止めてみませんか?」
思わぬ提案の理由を、シャーリーさんは続けて語ります。
「私、気づいたんです。無意識のうちに、誰とも距離を取ろうとしてることに。踏み込むこと、踏み込まれることが怖かった」
シャーリーさんの言葉に、私も気付かされます。
私も同じなのでしょう。癖付いたから、という部分もありますが、元をたどれば他人と深く関わり合うことが怖かったからだったのだと思います。
「でも、お父さんとお母さん。それに龍神様とお話をして、変わりたい、変えたいって思いました。ちゃんと話をして、心の深い所まで知ってもらって。それが嬉しく思える人とは、もっと距離を詰めたいって思ったんです」
シャーリーさんは言って、私の手を握ります。
「ねえ、雄一。よかったら、私のこと、有咲ちゃんみたいに呼び捨てにしてほしいな」
私は、これまでの自分が恥ずかしい。
大切な人だと言いながら、今まで通りという言い訳めいた惰性で、距離を詰める努力やお互いを分かり合う努力を放棄してきた。
シャーリーさんが、いや。シャーリーが勇気を出して自分を変えたのなら。
俺も、今、変わるべきなのだろう。
「そう、だな」
俺は、シャーリーに意思を伝える。
「俺も、君を大切にしたい。今まで以上に。だから、シャーリー。これからも、よろしく」
俺の言葉に、シャーリーは満面の笑みを浮かべた。
「うんっ!」
この笑顔が、変わらぬように。
俺もシャーリーのように、変わっていこうと思う。





