12 なり損ない
シャーリーさんは龍神に問われ、意を決した様子で口を開きます。
「龍神様。私は、私のスキルは、何なのでしょうか」
その問いは、シャーリーさんの中にあるコンプレックスを端的に表したものでした。
「私は、巫女になれない、なり損ないなんでしょうか」
問い掛けるシャーリーさんは、今にも泣き出しそうに見えます。
「必要なものを持たず、必要とされることが出来ず、たった一つの長所にも価値が無い私は、何なんでしょうか」
龍神は、シャーリーさんに問われ、ゆっくりと間を開けた後、答えます。
『精霊眼とは何か、を知りたいわけではあるまい。ならば、私から言えることは一つ』
どこか優しい語り口でシャーリーさんに語りかける龍神。
『なり損ないというなら、私も同じなのだ』
その言葉に、シャーリーさんは目を見開きます。
『遥か古の時代に、神へと至るべく召喚された数多の魔物の内の一匹が私だ。戦いを恐れ、逃げ、生き残ること以外に何一つ誇るようなこともなく、やがてこの地に横たわり、何も成さず、神へと至る気概も無ければ、至る可能性すらも残されていない、神に望まれた役割を何一つ出来やしないのが私だ』
龍神は、自分がどういう存在なのか語ってから、シャーリーさんに聞きます。
『里の子よ。そなたは、私をどう思う』
龍神の問いを受け、シャーリーさんは言葉に詰まります。
『そう。その沈黙が答えだ。誰も答えなど持たず、決める権利を持たない』
優しく、龍神はシャーリーさんを諭すように言います。
『善悪も、優劣も無く、生まれた全てを世界は祝福している。能力の過不足を理由に、自らを卑下する道理など無いのだ』
「本当に、そうなんでしょうか」
疑う言葉を口にしたシャーリーさんを、龍神はさらに諭します。
『そなたは生まれ、ここにいる。真実、真理というものは、思いの他そういった単純なものに過ぎない』
シャーリーさんのコンプレックス。あるいは、シャーリーさんを否定してきたものは、生まれてきたことまで否定できるような、世界の真理めいた超然的なものでは無いということなのでしょう。
『私は良く知っている。そなたが異界の勇者の為、命を危険に晒してまでここに立つと決めた勇気を。優しさを。だから、もう良いのだ。自らを責め苛むな、優しき人の子よ』
龍神の言葉を受け、シャーリーさんは涙を零します。
「私は、私はっ!」
『言葉も、道理もまずは忘れよ。そなたの隣を。歩んだ道のりを見よ』
シャーリーさんを遮るように言って、龍神は続けます。
『忘れられぬ人が。言葉が。思い出があるのなら。胸に残るものの為に、言葉も、道理も尽くすのだ。であればそなたは、何かのなり損ないではない。誰かにとって、決して替えの効かぬ、自分自身になっているはずだ』
龍神の言葉に続けて、私はシャーリーさんを抱き寄せます。
「私にとって、シャーリーさんは唯一無二の存在です。きっと今まで、シャーリーさんと出会い、関わった多くの人にとっても同じでしょう。もうとっくに、貴女は何かのなり損ないではないんですよ」
シャーリーさんは、涙を流しながら頷きました。
言葉は無くとも、シャーリーさんの胸に支えていた何かが溶けて消えていくのが、はっきりと分かりました。





