10 龍神
二時間ほどかけて龍神洞を進み、とうとう最深部へと到着しました。
そこで、ついに私は龍神と相まみえることになりました。
その巨体は鍾乳石に飲み込まれており、頭を残してほぼ全身が洞窟と一体化していました。
残る頭だけでも十分に巨大で、人間ぐらいの大きさの生き物なら、スナック感覚で丸呑み出来そうなほどです。
そして、間違いなく強い。
恐らくは魔王であるヴラドガリアさんや、勇者である蛍一君に匹敵する力があるでしょう。
それほどの威圧感が、横たわっているだけでも伝わってきます。
「雄一さん」
シャーリーさんは、私に手を差し出します。
私が手を握ると同時に、シャーリーさんが『精霊眼』のスキルを発動させます。
辺り一帯に、今までにない清涼な空気が流れるような感覚がありました。
そして、これで恐らく私も龍神と直接対話が可能になったはずです。
シャーリーさんを見ると、頷いて肯定してくれます。
すると、そのタイミングを待っていたかのように、龍神が目を開きます。
『里の子よ。そして異界の召喚者よ、よくぞ参った』
その言葉に、つい私は目を見開き驚いてしまいます。
『知りたいことがあるのだろう。自由に訊くといい』
「では、お言葉に甘えて」
私は早速、何よりも最初に聞かなければならないことを質問します。
「召喚された勇者が、どういう存在なのか。龍神様はご存知でしょうか」
『然り』
肯定の言葉。それに続けて、龍神は詳しい話を続けてくれます。
『全てを伝えるには、この世界の成り立ちを語らねばならぬ』
そうして、龍神は途方もない過去の話を始めます。
『かつて、この世界には何も無かった。神々はここを神の園と呼び、新たな神が生まれ出る為の場所とした』
神の園。聞いたことのない言葉によって、謎が解き明かされる期待が高まります。
『神は、新たな神に至る可能性を持つ存在として、異界の生物を召喚した。それが、始まりの魔物であった』
「魔物が、成長すれば神になるということですか?」
『然り』
なんと。予想外の事実です。
『神の園は魔物の世界となり、やがて知性ある魔物は国をつくり、国にとって必要な生物を神に請願し、召喚するようになった。そうして召喚された生物の中に、人があった』
魔物によって召喚されたのが、この世界の人類の起源、ということですね。
『人もまた、知性故に国を作り、時に魔物と同様、神に請願し、召喚をした。魔物の中でも優れた存在は神へと至り、世界には、弱き魔物と神に至る可能性を持たない生物で溢れた』
「つまり今、この世界は神の園としての役割を果たしていない、ということでしょうか?」
『否』
龍神は否定し、さらに話を続けます。
『世界は安定した。しかし人は更に発展することを望んだ。外敵を廃する手段として、勇者の召喚を神に請願した。神は、新たな神の誕生を望んだ。利害が一致し、神は召喚に応えた。異界の人類を、神に至る可能性を持つ存在として作り替え、勇者とした』
なるほど。それが勇者の起源ということですか。
「つまり、勇者とは神に至る可能性を持つように身体を作り変えられた、いわば人型の魔物であるということですね?」
『然り』
望んで求めた答えですが、こうして聞かされるとやはりショックですね。





